現金のあまり知られていない側面とは(写真:hqrloveq/PIXTA)
世界の基軸通貨である「ドル」。中でも百ドル札は、流通しているすべての米ドル札1兆8000億ドル分のうちの80%を占めているが、実はその75%はアメリカに存在しない。ではどこに行ったのか。決済オタクであり、SWIFT(国際銀行間通信協会)の元CEOでもあるゴットフリート・レイブラントの新刊『教養としての決済』(ナターシャ・デ・テランとの共著)から、米ドルという現金の、あまり知られていない側面を紹介する。
使われている実態を把握しづらい現金
現金はシンプルで身近なものだ。決済手段としてとびぬけて古いものであり、ビットやバイトや謎めいた帳簿に頼らずに価値の移転をおこなえる点がユニークである。
現金は簡単で、匿名性が高く、即時性があり、それで完結するものである。誰かがあなたに現金を渡すとき、その人物が十分な資金をもっていないというリスクはない。
また、現金は追跡不可能であり、手に入れたお金をすぐに別の取引に再利用することができ、譲渡するのに仲介者や弁護士を必要としない。当然のことながら、現金は犯罪者たちに長らく重宝されてきた。
それは裏社会に限った話ではない。現金はいまでも、取引件数ベースで、世界でもっとも広く使われている決済手段である。
現金のことならよくわかっている、と思ってしまうのも無理はない。しかし、その考えは改めるべきだ。現金がどのように使われているのか、その大部分は謎に包まれている。
2020年半ば、イギリスの会計検査院は、実に500億ポンドに相当するイギリスの紙幣が使途不明になっていると明らかにした。どれだけの数の現金取引がおこなわれているのか、どれほどの額が取引されているのか、まったくわからないのだ。
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