メキシコ経済省は8月18日、矢崎グループ自動車部品工場(メキシコ・グアナファト州)に関する米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に基づく労働権侵害事実確認要請について、メキシコ政府として事実確認は行わないことを米国政府に通知したと発表した(経済省プレスリリース8月18日付)。メキシコ経済省はその理由として、企業が組合の問題に干渉し、労働者の結社の自由および団体交渉権を侵害したという十分な証拠がないと労働社会保障省(STPS)および連邦調停労働登録センター(CFCRL)は断定したと説明している。
米国政府は、3月31日に矢崎グループ同工場で実施された労働協約を適法化するための投票(注1)では、多くの不正が行われ、労働者の団結権と団体交渉権が侵害された疑いがあるとし、8月7日にUSMCAが定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」に基づき、メキシコ政府に事実確認を要請していた(2023年8月8日記事参照)。メキシコ政府は、当該適法化投票についての報告書、投票結果についての不服申し立てに対するCFCRLの裁定、そしてSTPSによるそれらの文書の検証の結果、企業側の労働権侵害を証明する十分な根拠がないと判断した。また、このことは、米国政府が8月7日に正式にメキシコ政府に事実確認を要請する前に、非公式なかたちで米国政府に伝えていたという(同上プレスリリース)。
労組側はパネルに持ち込む構え
米国政府に労働権侵害を提訴したメキシコの労働組合、カサ・オブレラ・デル・バヒオ(CBO)は、今回のメキシコ政府の決定に遺憾の意を表明し、労働権の侵害は確かに存在するとし、「メキシコ政府がメキシコ労働者総連合(CTM)傘下の腐敗したミゲル・トゥルヒージョ・ロペス労働組合の体制を擁護すると決めたのならば、それはCFCRLの非効率さを隠すためか、あるいは労働ではなく別の観点からの歪曲(わいきょく)した政策に基づく決定によるものだ」と非難している。CBOは「十分な証拠を保持しており、必要ならば紛争解決パネルにおいて再度それらを提出する」とし、最終手段としてパネルが設置されることも視野に入れている。
USMCAの第31-A.4条2項(注2)に基づき、被提訴国が事実確認を不実施、または要請に返答しない場合、提訴国はパネル設置を要請できる。今までのRRMに基づく紛争案件では、パネル設置の要件を満たす前に両国が是正策などで合意し、問題が解決されてきたが、米国がメキシコ側の今回の通知内容にもかかわらず、依然として労働権の侵害が起きていると信じる場合、USMCA第31-A.5条のプロセスに基づきパネル設置の要請が行われる可能性がある。
(注1)2019年5月1日付官報で公布した連邦労働法改正令に基づき、雇用主が労働組合との間で同日以前に締結した既存の労働協約の内容について、職場の労働者の過半数の賛成を経て再承認するプロセス(2019年8月5日記事参照)。
(注2)メキシコとカナダの間の紛争の場合は、第31.B.4条2項に基づく。
(中畑貴雄)
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