ASEAN南部では2023年、ヘイズ(煙害)が深刻化する可能性が指摘されている。シンガポール国際問題研究所(SIIA)は6月21日、「ヘイズアウトルック2023」を発表した。今後1年の特にインドネシア、マレーシア、シンガポールに影響を与える深刻な国境を越えたヘイズが発生する可能性について、気象予測、政策、市場(森林伐採を助長する可能性のある価格)の3つの要因に基づいて分析し、「緑」(低リスク)、「琥珀(こはく)」(中リスク)、「赤」(高リスク)の3つで評価している。今回の報告書では、特にエルニーニョ(注1)の影響による深刻な乾燥が予測されることから、越境ヘイズ発生リスクを「赤」とした。「赤」と評価したのは、同報告書の発表を開始した2019年以降で初めて。
森林火災と越境ヘイズを監視・評価するASEAN特別気象センター(ASMC)の5月29日の発表でも、ASEAN南部の多くの地域により乾燥、またより高温な天候をもたらすエルニーニョ現象と正のインド洋ダイポールモード現象(注2)の発生を見込み、ASEAN南部では6月から10月にかけて、ホットスポット(火災発生個所)が増加し、越境ヘイズが発生するリスクが高いと評価していた。
ヘイズは、インドネシア・スマトラ島などでの大規模な野焼きや森林火災によって生じた煙が南西季節風(モンスーン)により、マレー半島やシンガポールに流されることで生じる煙害。最近では2015年に、同じくエルニーニョ現象によってヘイズが深刻化したことがあった(2015年11月4日記事、2016年1月12日記事参照)。当時、シンガポールで2カ月続いたヘイズの被害は18億3,000万シンガポール・ドル〔約1,940億円、Sドル、1Sドル=約106円〕と試算されている(注3)。シンガポール国家環境庁(NEA)ウェブサイトでは、2023年5月30日付で、省庁間ヘイズタスクフォース(HTF)がヘイズ発生に備えて行動計画を調整している点に言及するとともに、市民に対して、N95マスクや空気清浄機を十分な状態にしておくなどの準備を呼びかけた。
SIIAは今回の報告書で「インドネシアや他のASEAN諸国はここ数年、森林火災への対応のみならず、森林火災の防止、さらには森林伐採を回避するための統治システムを大幅に改善してきた」と分析。「たとえ強いエルニーニョ現象と正のダイポールモード現象が発生したとしても、1997年と2015年に見られた記録的なヘイズに比べれば、緩和される可能性がある」とした。
(注1)太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象。
(注2)インド洋熱帯域の海面水温が南東部で平常より低く、西部で平常より高くなる場合を正のインド洋ダイポールモード現象、逆の場合を負のインド洋ダイポールモード現象と呼ぶ。
(朝倉啓介)
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