昨今、SNSでは露骨にコンプレックスを煽り、商品を訴求する投稿が多く見受けられる。悩みや不安をすぐに解決できるような語り口に、ユーザーが惑わされてしまうことも少なくない。そんな時代、安易に煽らず周囲を納得させる発信ができる人は、貴重な存在に。TikTokやYouTubeでコスメのレビュー動画を中心に発信している美容動画クリエイターのやみちゃんは、その情報発信において「人を嫌な気分にさせたくない」と煽り動画には手を出さない姿勢を貫いている。情報を発信する立場だからこそ、コンプレックスにまつわる発信にこだわりがあるという。
■紹介する商品で“人柄”を出せる、ニッチなアイテムへのこだわり
――TikTokやYouTubeでコスメのレビュー動画を発信してらっしゃるやみちゃんさん。それぞれの発信における違いはありますか?
長い尺の動画を投稿できるYouTubeの場合、TikTok以上に“人間性”が求められると感じています。美容系のジャンルは、商品を扱う場合、説明しなければならない要素が多いので、どうしても冷たい印象を与えがちです。でも、YouTubeの場合は「意外とそうじゃないよ」っていうところを見せられる、人柄が滲み出やすい場所だなと思います。
――やみちゃんさんの動画を見ていると、売り切れが続出しているような話題のコスメに影響を受けすぎず、他の美容系YouTuberさんが紹介していないような「どこで見つけてきたの?」と驚く鼻パックや海外の商品を紹介している印象です。それは、やみちゃんらしさ、“人柄”を出すための戦略なのでしょうか?
人柄を表す1つのポイントであることに間違いはないと思います。私、他の美容系クリエイターさんたちと比べたらコスメに詳しくないと思うんです。だからこそ、他の方がやらないような切り口、ウキウキ感とかエンターテインメント性を大切にし、見ている人が楽しめるようなものを選んでいるんですよね。
――どうしてウキウキ感を大切にしているのでしょうか?
「なにこれ!」と驚いて、誰かに共有してもらえるからです。やはり見たことのないものや、見た目がキャッチーなものを見つけたときって嬉しくなると思うんですよね。だから「これめっちゃおもしろいじゃん」と思ってもらえたら嬉しいと思いますし、そのほうが結果的にバズるんだなと…。
――話題のアイテムを取り上げる方が、ラクにバズる流れを作れるとも思うのですが、なぜそれをやらないのでしょう?
私は自分の感覚を信じているので「私が興味ないものは、私のチャンネルを登録してくれる人たちも興味ないだろう」と思っているんです。私が気になったものが、みんなも気になるのかなと。
■訴求力の高い“煽り動画”に再生回数を求めるのは「ちょっとズルい」
――発信する際に気をつけていることはありますか?
無難なことを言いすぎるとおもしろくないものの、見ている人を不愉快な気持ちにさせてしまう動画は嫌だなと思っているので、 アウトとセーフでいうと、ギリギリセーフのラインを攻めている時があります。ただ、誰かを傷つけるようなことは絶対に言わないようにしています。
――美容系の動画や広告の中には、コンプレックスを煽るような動画も多い気がします。
そうなんですよね。見ていて気分が悪くなりますし、芸能人の方が広告塔になって、そのようなことをおっしゃているのを見ると、「こういうこと言えちゃうんだ」と悲しい気持ちになります。
ーーどうしたら、そのような動画はなくなると思いますか?
「なくなってほしいな」と思う一方で、訴求力が高いのも事実なので、なくならないんだろうなと思います。だから、受け手側であるときには、間に受けない、情報を判断する力を養う必要があるなとも考えています。
――バズを狙うのであればコンプレックスを煽るような動画を出すのも手かと思います。それをやらないのはなぜでしょうか?
単純に嫌な気分にさせたくないんですよね。コンプレックスを解消するために、それを解消できる商品にすがりたくなることって誰でもあると思います。でも、こういう仕事をしているからこそ即効性だったり、「絶対に痩せる」みたいなことってないと思っていますし、薬機法的にも言ってはいけないと強く思うようになりました。それなのに、そこのルールを守らずに再生回数を求めるのは、ちょっとズルいと思っちゃうんですよね。
それに、短期的には伸びるかもしれないですけど、長期的に見た時に衰退していってしまうと思うんですよね。
――なぜでしょう?
「この人が紹介していたアイテムなら欲しい!」と思ってもらえるのって、信頼ありきだと思うからです。「前に紹介していた商品、全然効果なかった」とか「嘘をつく人」って思われたら応援してくれる人がどんどん減っちゃうかなと。
■「キラキラしている人を見て、落ち込む必要なんて絶対にない」
――煽るような表現をしないのは、やみちゃんさん自身がコンプレックスに悩んだ経験があるからなのでしょうか?
そうですね。特に私は小学生のころからとにかく自信がなかったんです。小さい頃から芸能界を目指していて、夢が大きかったからこそ、コンプレックスもとんでもなく大きくて、誰も気にしないようなところが気になったり… 。時にはみんなから監視されてるような気持ちになってしまって、私はなんてダメな人間なんだと落ち込んでいましたね。
ーーそこまで落ち込んだのは周りから馬鹿にされた経験があるからなのでしょうか?
それはありませんでした。でも、周囲の目は人一倍気にしていましたね。自分が気にしていることに対して誰かに何か言われたら、本当に辛いですし、一生傷が癒えないんじゃないかなと思います。今でこそ「誰も私のことなんて見てないな」と思えるようにはなりましたけど、10代のころはそう思えなかった。だからこそ、動画での表現には人一倍気を配っているんです。
――やみちゃんさんは、コンプレックスに悩んでいる人はSNSとどう付き合うのが良いと考えていますか?
正直私も、iPhoneのノーマルカメラで自撮りすると、コントラストがきついこともあって、肉眼では見えないシミがめっちゃ濃く見えて凹みます。でも、それって全人類がきっとそうですよ。みんな自分の中で”イイ”と思えるものしか載せてないだけ! キラキラしている人を見て、落ち込む必要なんて絶対にないですよ。
取材・文/於ありさ
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