Saturday, June 17, 2023

この一冊ダイエット幻想 過剰なやせ求める社会朝日新聞 ... - 朝日新聞デジタル

 5月31日、アラフィフのおじさんが人間ドックに行った。身長170センチ、体重90キロ。体脂肪率、BMIともにぞっとする結果だった。保健指導を受けることになり、ヤバさを自覚しダイエットを決意した。では参考までにとダイエット本を物色し、異彩を放っていた「ダイエット幻想」(ちくまプリマー新書)を手に取った。

 著者は長野県出身の文化人類学者で、現代の日本のダイエットを多角的な視点から考察している。メタボなおじさんが対象というより、若い女性が陥りがちな問題が主に描かれている。健康的な身体以上の過剰な「やせ」を求める現代社会の危険性を考察していく。私とはまた別の世界のダイエットの現実をのぞき、健康を求めること以外にダイエットする理由を興味深く読み進めた。

 終わりなき他者との比較と承認欲求、「かわいい」の追求とその背景にある価値観、シンデレラ体重が「やせすぎ」を生む現実……。実際のところはどうなのかと、ためしに同じ商店街の20代の女性に聞いたところ、学生時代から今までを振り返りながら語ってくれた。この本と似た事例、特にSNSにあふれる「やせ」の称賛、メディアからの影響の話をしてくれて、ちまたによくあることなのだと少々驚いた。

 後半では、カロリー計算による数字管理の行き過ぎによって「おいしさの物語」が食事から消えてしまう残念感や、日常生活で目にするダイエット情報の真偽について語られていく。後者では、「強烈なタブー」を設けた過激なダイエット方法、それによって劇的な成功が語られる「変身の物語」、「カリスマのいるダイエット」への妄信――の三つの注意点が述べられ、確かにそういう面があるなとうなずきながら読んだ。

 さらに、本書には「ふつうに食べる」ことができなくなった症例が出てくる。食べることの調整を身体ではなく、「頭でため込んだ知識で、食べる量や内容を管理する」ことによって引き起こされる場合があるという。私は欲望のままに食べていたので、節制した自覚的な食事から「ふつう」を取り戻したいと思っていたが、もちろん逆に傾きすぎた場合には危ない面があるのだ。

 最後に著者は、そうした呪縛から解放されるためにも、どのように生きていけばいいのかを考察する。詳しくは本書を当たってほしいが、「ダイエットの語源は生き方(way of life)」であり、「生きるとは、自分と異なる様々な存在と巡り会い、その出会いに乗り込みながら、互いを作り出すこと。そして、その現れを手がかりにし、次の一歩を踏み出し、進むこと」とあった。

 さて、肝心のわたしはというと、当面は「やせること」が第一であるものの、その過程やその先のことまで想像してしまい、よく解きほぐせないままでいる。この本を読み終えてみると、単に「やせればいい」と考えていた安易な「ダイエット」観からは随分と遠い所まで来てしまったと思った。

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 紹介する人 宮川大輔 1974年生まれ。甲府市中心街のまちの書店「春光堂書店」店主。店を拠点に朝の勉強会、読書会も催す。

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