どのような政策にも光と影がある。私も厚生省勤務時に、何度となく社会保障制度の改正を担当した。「改正」というと良いことだけのように聞こえるが、社会保障の給付改善が光とすれば、負担増は影と言える。 介護保険制度の創設も多難であったが、今日の長寿社会において国民の安心を支える制度として定着している。給付と負担のバランスは、難しいことではあるが国民の理解と納得の下で決まるのが望ましく、それには十分な説明が不可欠である。 コロナ対策のために、さまざまな補正予算が組まれ、当時の総理は、諸外国に比べて最大の対策を講じたと胸を張った。しかし、その費用は国民の負担である。 私は、本来なら国民に「将来の負担増になるが、当面する諸困難を乗り越えるため、これだけの補正予算を組ませて欲しい」と説明するのが筋であると思っている。大は必ずしも善ではない。国民的論議あるいは国民の納得が不十分なまま政策が遂行されると、政策の評価も「不十分」となる。会計検査院が8千万枚余のマスクが倉庫に保管され費用が約6億円と指摘しているが、これはその典型例である。
衆院選を経て、岸田内閣が実質的にスタートした。コロナ対策はもちろん、経済の低迷を打破し国民生活の向上をどう図るか。長寿化が進む中での高齢者の雇用の場の確保、女性の社会進出、非正規雇用等の若者への雇用対策、それを吸収できる経済対策、子どもの貧困問題、教育の負担軽減、少子化への対応、過疎過密問題と地方創生、災害に強い国土づくり、科学技術の振興、AI・IoT・デジタル化に対応した社会経済のあり方、エネルギー問題と地球環境保全の両立、これらを踏まえた経済成長政策、財政再建、国際社会の中での立ち位置、その他、山積する重要課題への的確な対応が求められている。 これらの課題に同時並行的に対応していくには、時間をかけても、国民の英知を結集する場を作り、腰を据えて取り組むしかないのではないかと思う。その前例は、大平総理の田園都市構想研究グループであり、中曽根総理の第二臨調(土光臨調)である。田園都市国家構想は、大平総理亡き後も国家の指針として多くの人に活用され、土光臨調は旧来の仕組みを大きく変革していった。大きな変革を実現するには、泥縄では駄目で、それ相応の人手と時間を要するのである。
産官学の若手オピニオンリーダーを百人ぐらい集めて、国家の現状についての基本情報を共有した上で、将来について議論をする。さまざまな専門分野の英知が集まることによって、創発効果が生まれ長期戦略が練り上げられる。日本の現状を打破し、多くの光を集め影をできるだけ小さくする総合戦略策定のために、そのような場を作ることが必要ではないかと思う。聴く力を掲げる岸田内閣に期待するところである。
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