黒人男性のジョージ・フロイドが警察官に暴行され死亡した事件を受け、大手テック企業や経営者たちは抗議活動への支持を相次いで表明している。だが一方で、各社のプラットフォームでは人種差別的な発言が実質的に放置され、警察による過剰な取り締まりと監視を可能にする技術を提供してもいる。こうした矛盾に批判の声も上がっている。
TEXT BY SIDNEY FUSSELL
黒人男性のジョージ・フロイドが警察官に暴行され死亡した事件は、集団的な怒りと全国的な抗議デモを招いた。そして警察の改革を求める声が改めて高まると同時に、シリコンヴァレーのリーダーたちが異例の素早さで人種的公平性の支持に回る動きにつながった。
その動きへの反発もまた、素早かった。人々はいま、構造的な人種差別をなくすよう求める運動「Black Lives Matter(黒人の命も大切だ)」への支援を約束している多くのテック企業について、各社のプラットフォームで人種差別的な発言を防ぐことを怠り、場合によっては抗議デモの原因となった警察による過剰な取り締まりと監視を可能にしたとして非難している。
顔認識を警察に売り込むアマゾンの矛盾
アマゾンの最高経営責任者(CEO)であるジェフ・ベゾスは5月末、Instagramで作家のシェネクア・ゴールディングによるエッセーをシェアし、人種的トラウマの「根深さ」についてコメントしている。その翌日、アマゾンの公式アカウントは「黒人コミュニティとの連帯」についてツイートした。アマゾン ウェブ サービス(AWS)のCEOであるアンディ・ジャシーは「黒人の不当な殺害が許容されることを拒否するには何が必要だろうか?」とツイートしている。
ところが、アマゾンは警察に監視ツールを提供している。そのなかには、顔認識を可能にすることで広く批判されている画像・動画分析サーヴィス「Amazon Rekognition」も含まれているのだ。
AI研究者のジョイ・ブオラムウィニのレポートによると、このツールは肌の色が薄い人よりも濃い人を誤認することが多いという。アメリカ自由人権協会(ACLU)は2018年、このツールが連邦議会議員を犯罪者と誤って認識し、しかも白人より黒人の政府高官を誤認する頻度が高いことを指摘している。
「『構造的な人種差別や不正との戦い』を支持するアマゾンのツイートは、“美徳シグナリング”を美徳そのものと履き違える教科書的な事例です」と、プライヴァシー学者でロチェスター工科大学教授のエヴァン・セリンガーは指摘する。「公民権団体だけでなく関連する株主らも、 マイノリティに深刻な脅威をもたらしている法執行機関に顔認識ツールを売り込むアマゾンを批判しています」
監視ツールの利用は「違法ではない」
AWSのジャシーは、従業員や人種間の平等を推進する多くの団体がシステムの法執行機関への販売に反対していたにもかかわらず、Rekognitionを擁護している。2018年の全社会議で、ジャシーは従業員に次のように語っている。
「もしシステムを導入したユーザーが国民の憲法上の権利を侵害していることが判明すれば、サーヴィスを利用できなくなります。民主主義国家においては、技術に関する指針や規制がどうあるべきか定めることを支援についても、政府の責務である場合が多いのです」
警察がこうした監視ツールを使うことを禁じる法律は存在しない。だが、ジャシーのコメントは、警察改革の努力を阻害するような欠陥が潜む考えを彼がもっていることを物語っている。監視ツールの利用は「違法ではない」から受け入れられるというのだ。
今回の抗議デモの発生を受け、トランプ大統領が「暴徒を追跡せよ」と法執行機関に命じたことが報じられている。こうして抗議デモへの対応の一環として、警察が監視技術を使用する懸念が再び浮上している。
この件についてアマゾンにコメントを求めたが、回答はなかった。
警察に位置データを提供するグーグル
グーグルのCEOであるスンダー・ピチャイも同じように、「黒人コミュニティと団結して人種の平等を支持していく」と5月31日にツイートした。しかし、グーグルもまた、過剰な取り締まり行為を支持しているとして批判を受けている。
公民権団体は、“ジオフェンシング令状”を可能にするグーグルの業務慣行を非難している。これは警察が捜査対象の地域のデヴァイスのデータをグーグルに要求することを許可するものだ。グーグルはまず、指定された地域内の電話機について匿名の情報を提供する。警察が容疑者を絞り込むと、グーグルは特定のデヴァイスに対応するユーザー名と位置データを提供するという流れだ。
ジオフェンシングが有色人種のコミュニティを狙い撃ちにしているという証拠は、ほとんどない。だが多くの人は、犯罪現場のはるか外側のデヴァイスが含まれているときに作成されたとして批判している。
ジオフェンシングは多くの場合、街路名や住所ではなく、GPS座標を用いて記述されている。そして範囲が広すぎる場合が多く、対象となる人数も犯行現場の近くにいると合理的に考えられる人数を優に超えているという。
警察がどの程度の頻度でジオフェンシング令状を要求しているのかは、明らかではない。だが、グーグルが自己申告した政府の要求に関するデータによると、2017年の10,000件が昨年は約20,000件に急増している。グーグルは今年1月以降、データ提供を求められた際に警察に最大245ドル(約26,700円)を請求している。
「修正第4条による保護が不十分であるがゆえに、GPSやテキスト、ソーシャルメディア、あるいはAndroid端末の検索データが裁判で証拠として使われる可能性があります」と、ブライヴァシー関連の非営利団体である「Surveillance Technology Oversight Project(STOP)」でテクノロジーディレクターを務めるリズ・オサリバンは語る。「大手テック企業が公共の利益を守るためにできることはもっとあるはずです。それなのに企業はそれを怠り、実際に正義を推進する可能性のある法案に反対するために多額のロビー活動費を使っています」
この件について当初はグーグルからコメントがなかったが、のちに同社の法務と情報セキュリティ担当ディレクターのリチャード・サルガドがコメントを寄せた。「わたしたちは法執行機関の重要な業務を支援すると同時に、ユーザーのプライヴァシーを精力的に守っています。開示されるデータの範囲を狭めながら法的義務を尊重できるように、特別にプロセスを開発したのです」
セールスフォースやRedditも矢面に
一部の企業は、非白人コミュニティへの過剰な取り締まりや監視を可能にすると批判されている製品を開発したことで非難されている。例えば、セールスフォースやGithubの公式アカウントが「Black Lives Matter」への支持をツイートすると、ネット上では両社が米国税関・国境警備局や米国移民・関税執行局と契約しているとの多くの指摘があった。
コミュニティベースのソーシャルネットワークアプリ「Nextdoor」の運営企業は、「Black Lives Matter」への支持をツイートした直後に批判を浴びた。Nextdoorのユーザーが有色人種の人たちを人種的に識別し、犯罪の言いがかりをつけているという非難に、同社の経営陣は数年にわたって直面してきたのだ。
Nextdoorは『WIRED』US版に対して、同社が人種差別的な発言を検出するアルゴリズムを導入し、ユーザーが他人を不審者として通報する際により詳細な情報を要求するようにしたと説明している。これにより、アプリ上での人種の識別が減少したという。「たったひとつの事案でも大きな問題です。今後も努力を続けます」
批判は警察改革を巡る懸念にとどまらない。オンライン掲示板「Reddit」の共同創業者兼CEOのスティーヴ・ハフマンは6月1日、従業員への公開書簡のなかで「Black Lives Matter」への支持を表明した。その数時間後、前CEOのエレン・K・パオは、Reddit上の人種差別的な荒らし行為を無視していること、そしてさらに深刻なことに白人至上主義から利益を得ているとしてハフマンを非難した。
そしてパオは、次のようにツイートした。「ずっと白人至上主義とヘイトを助長して収益化しているのに、BLM(Black Lives Matter)だなんて言えないでしょう」
2015年に暫定CEOだったパオは、特に悪質なサブレディットのいくつかを禁止するよう働きかけ、長年のユーザーからの反発を招いていた。これに対し、CEOとして彼女のあとを継いだハフマンは、「コミュニティが独自に誹謗中傷の適切な基準を設定する」という、より手のかからないアプローチを選んだ。
Redditの広報担当者によると、同社は人種差別的なサブレディットを禁止したほか、親トランプ派のフォーラムとして最も悪名高いサブレディット「r/thedonald」を開いた利用者には警告画面を表示するようにしたという。
トランプの発言を放置するFacebook
同様にフェイスブックに対しては、CEOのマーク・ザッカーバーグを含む幹部が6月1日の夜に公民権運動の指導者と会談したあとも、批判が続いている。ザッカーバーグは1日、同社が人種間の平等を推進する団体に1,000万ドル(約11億円)を寄付すると発表し、フロイドの死を撮影した動画がFacebookに投稿されていたことに言及した。
ところがザッカーバーグは、トランプ大統領の「略奪が始まれば銃撃する」というTwitterで警告ラベルが表示されたメッセージがFacebookに再掲載された問題について、行動を起こすことを拒んでいる。これに激怒した従業員たちは仮想ストライキを実施し、この判断への反対を表明した。
全米黒人地位向上協会(NAACP)の法的防御・教育基金や、公民権団体「Leadership Conference on Civil and Human Rights」、反人種差別団体「カラー・オブ・チェンジ」の指導者たちは1日の会合後の声明で、ザッカーバーグの判断を抗議デモの参加者に対する暴力と結びつけた。声明文は、ザッカーバーグが「有権者に対する弾圧の歴史と現状への理解を示しておらず、フェイスブックがトランプによるデモ参加者への実力行使の呼びかけを幇助していることを認めようとしない」としている。
フェイスブックの広報担当者は、「公民権運動の指導者たちがマークとシェリルと真摯に率直な意見交換をしてくれたことに感謝しています」とコメントしている。シェリル・サンドバーグは同社の最高執行責任者(COO)である。
パフォーマンスとしての問題意識
これらの動きを受けて、監視や人種差別を研究する独立研究者のクリス・ギリアードは次のように指摘する。「企業の行為は、ときに『パフォーマンスとしての問題意識(performative wokeness)』と呼ばれるものと見なしていいと思います。『黒人コミュニティを支持する』という声明を出したとしても、それは企業として最低限できなければならないことなのです」
「これらの企業の多くは、黒人の労働力を搾取したり、黒人を直接傷つける憎悪や過激主義を増幅させたりすることで利益を生み出しています」と、ギリアードは続ける。「もしアマゾンが本当に黒人の命が大切だと感じているなら、従業員を扱う方法を改善し、Rekognitionの販売をやめ、(カメラ付きドアベルの)『Ring』の販売を中止するはずです。フェイスブックが本当に黒人コミュニティを支持するなら、Facebook上で横行する白人至上主義を根絶するでしょうね」
新しく登場しつつある監視ツールに対しては、公正な利用を管理する規則が整備されていない。このため企業の方針は非常に重要になる。改革に焦点を当てた公民権運動と協調するか、あるいはそれに反対するか。政府の規制に従う代わりに、企業の幹部が法執行機関との関係をどのように位置づけ、解釈するかはさまざまだろう。
※『WIRED』による「Black Lives Matter」の関連記事はこちら。
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