歴史的な物価高のもとで、春闘の議論が本格化する。賃金が物価以上に伸びなければ、働き手の生活は苦しくなり、個人消費の腰折れや景気への悪影響にもつながりかねない。企業は大幅な賃上げで働き手に報い、長年の賃金低迷に終止符を打つ必要がある。
消費者物価の上昇率は、先月には前年比4・0%と41年ぶりの高さになった。物価の伸びを差し引いた実質賃金は、昨年11月まで8カ月連続で前年を割り込んでいる。
今春闘では、労働組合の中央組織・連合が「5%程度」の賃上げを目標に掲げた。定期昇給で2%、賃金体系を底上げするベースアップ(ベア)で3%程度の引き上げを目指す。
一方、経団連は先週公表した春闘の指針で、物価高を踏まえた積極的な賃上げを「企業の社会的な責務」と位置づけた。ベアも「前向きに検討」と前年より踏み込んだ。十倉雅和会長は「賃金と物価が適切に上昇する好循環へとつなげていかなければ、日本経済再生は一層厳しくなる」と述べている。
もっともな指摘だ。だが、具体論になると、経団連の指針は腰の引けた記述に転じる。連合の目標は近年の賃上げ実態から「大きく乖離(かいり)している」と釘を刺し、「建設的な賃金交渉を目指す観点から、要求水準自体については慎重な検討が必要」と消極姿勢をにじませる。
しかし、直近の4%という物価上昇率は、まさに近年の実態から大きく乖離する。連合が掲げるベア3%が実現しても、物価高すべては埋め合わせられない。ましてや賃上げが「近年の実態」を多少上回る程度なら、働き手の給料は大きく目減りしてしまうだろう。
世界経済の不透明感が増すなかで内需を支えるためにも、物価高を踏まえた十分な賃上げは必須である。企業業績は総じて好調であり、多くの場合、賃上げ余力は相応にあるはずだ。
同時に、働き手の約7割が勤める中小企業や、4割近くを占める非正規社員にも賃上げを広げなければならない。中小企業の賃上げを促すには、企業間取引での適正な価格転嫁が前提になる。大企業が誠実に対応するのはもちろん、政府にも適切な監視をするよう求めたい。
さらに重要なのは、今春闘での賃上げを、四半世紀にわたる賃金低迷からの転換点にすることだ。1回限りの賃上げに終わらせず、来年以降も賃上げが続く状況を実現しなければならない。継続的な賃上げこそが経済の好循環を生み、持続的な成長には人への投資が欠かせない。その共通認識を労使で深める機会にすべきだろう。
からの記事と詳細 ( (社説)物価高と春闘 十分な賃上げが必須だ:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル )
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