Wednesday, January 18, 2023

ニュージーランド首相ジャシンダ・アーダーン。高い決断力と優しさで国を率いてきた彼女は、永遠のロールモデルだ - VOGUE JAPAN

首相在任中に妊娠と出産を経験したのは彼女のほかに、パキスタンの元首相ベーナズィール・ブットがいる。しかし、ブットが妊娠を公表した80年代は、職場における女性の妊娠に対する風当たりが強く、野党から大きなバッシングを浴びたため、彼女は秘密裏に出産し、休むことなく職務を続けた。

そのためアーダーンのように、産休と育休を取得した首相は世界のどこにも前例がない。しかも、妊娠の発表が政権樹立から3カ月後のタイミングだったため、世間はなおさら驚いた。しかし興味深いことに、公表後、彼女の支持率は上昇したのだ。

「妊娠しているだけで、動けないわけではない。だからといって、女性が仕事と家庭の全てを一人で背負うという考えには反対です」

そう常に口にし、時にはひどいつわりに襲われながらも職務を全うする彼女の姿を国民は見守った。かくして「一国の首相であり、母親になる」という彼女の強さと覚悟は、働く女性の妊娠・出産につきまとう悪しき偏見を180度覆し、支持率はさらに上昇したのだった。

モスク襲撃事件後、即刻銃規制を強化

銃乱射事件から1年が経過したクライストチャーチのモスクを訪問。Photo: Martin Hunter / Getty Images

一方でアーダーンは常に国民の安全を最優先に考える首相であり、連帯を訴え、差別や偏見には断固とした姿勢で対処してきた。

2019年3月、クライストチャーチのモスクで銃乱射事件が発生し、51人が命を落とすというニュージーランド史上稀に見る凶悪犯罪が起きた直後、彼女は議会で涙ながらに訴えた。

「私は、モスクを襲撃した男の名を決して口にすることはしません。過激なテロリストには、名前など必要ありません。どうか皆さん、人殺しの名前を口にするくらいなら、亡くなった尊い命の名前を呼んでください。武器が大量かつ簡単に手に入れられる時代を終わらせなければいけません」

その言葉通り、事件の翌月には議会で銃規制法を修正する法案が採択・承認され、続く2日後には、軍用セミオート銃の販売と保有を禁じる法律が施行された。さらにニュージーランド警察相によると、銃の買い取り制度を介して半年で約56,000丁の銃を回収したという。

「オーストラリアでは1996年に起きたポート・アーサー大量殺人事件を受けて銃規制の法改正が行われました。同様に、我々も法改正を行っただけです」

銃規制がいまだ進まないアメリカのメディアの取材に対しアーダーンはそう答え、これが国民の命を守る上での当然の責務だという姿勢を示した。さらに事件の風化を危惧し、今年3月に再び事件現場を訪れた彼女は、さらなる銃規制の強化のための改革の意向を明らかにした。

ジャシンダ・アーダーンが下したコロナ禍の英断

ニュージーランド史上最も多様性に富んだ第53回ニュージーランド議会。Photo: Mark Mitchell-Pool / Getty Images

世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るい始めたパンデミック初期、彼女は国内での感染発生の翌日に感染拡大警戒水準を最高レベルに引き上げ、1週間後の2020年3月にはニュージーランド全土封鎖を実施。国境再開は慎重に行われ、2022年8月に完全に再開された。

「カジュアルな格好でごめんなさい。子どもを寝かしつけたばかりなんです。これから私たちはかつて経験したことのない状況に直面します。ですから、少し皆さんとお話をしたいと思いました。私たちはいつでもあなたの声に耳を傾けていますから、決して一人ではないことを覚えていてください」

ロックダウン実施直前に彼女はラフなトレーナーに身を包み、自身のフェイスブックから国民に向かってこう動画メッセージを発信した。

「今後私たちが皆さんに送る指示は、完璧ではないものもあると思いますが、基本的には正しいものです。また仕事を休むことになるかもしれませんが、それは失業ということではありません。むしろ皆さんが仕事を休むことで、人の命を救うことになるのです。ですから皆さん、他人に優しく、できるだけ家にいましょう。そしてウイルス感染の連鎖を断ち切りましょう」

少ない人口や島国であることなど、ニュージーランドが有利な条件下にあったことを差し引いても、専門家が提示する科学的エビデンスを全面的に重視したアーダーンの迅速な決断力が打ち出したコロナ対策は目を見張るものがあった。また、ロックダウン中もニュージーランド全土の路上電子掲示板から「BE KIND STAY CALM」とメッセージを送るなど、明確で要点を得たストレートかつシンプルな高いコミュニケーション力は国民の共感を呼んだ。

デイム・ジェニー・シップリー、ヘレン・クラークら歴代女性首相からバトンを引き継ぎ、ニュージーランドの新たな時代を統率してきたアーダーン。優しさを持って即断し、間違っていたときは直ちに方向転換する。辞任を表明した際にも、「私にはもう、この仕事を正当にこなすだけの力がない」と自身の引き際も自分で見極められるところも、尊敬に値する。卓越した高い共感力と発信力でニュージーランドを率いてきた彼女は、これからも多くの女性たちにとってのロールモデルであり、誰もが輝ける社会の象徴だ。

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Text: Masami Yokoyama Editor: Mina Oba

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