Tuesday, March 28, 2023

学習端末でのデータ活用、新たな見守りツールか過剰な監視か ... - 読売新聞オンライン

 全国の小中学生に1人1台のコンピューターを配備する政府の「GIGAスクール構想」が進み、今や子どもに関する多様なデータが収集可能になった。閲覧・検索履歴のほか、端末の内蔵カメラを通じて子どもの感情を分析するなど、教育現場での活用も広がっている。データの活用は子どもの見守りや効率的な学習に役立つかもしれない。だが、プライバシーやAI活用などのリスクは十分に検証されているのだろうか。(編集委員・若江雅子)

 「透明性に欠けた対応ではないか」

 3月22日に開催された文部科学省の「教育データの利活用に関する有識者会議」。委員の石井 夏生利(かおり) ・中央大教授(情報法)がまず批判の矛先を向けたのは、事務局のパブリックコメント(パブコメ=意見公募)に対する姿勢だった。

 文部科学省は、学校や教育委員会が教育データを利活用する場合に注意すべき点を「留意事項(案)」として約60ページの文書にまとめ、2月28日から2週間、パブコメを実施、17日に確定版を公表した。

 留意事項案では、主に(1)個人情報保護(2)プライバシー保護(3)セキュリティー対策が整理されたが、記述の多くは個人情報保護法の説明で、プライバシーについての記載は約2ページのみ。データに基づく分析・推測(プロファイリング)のリスクにも触れていなかった。

 パブコメには21件の意見が寄せられた。だが、文部科学省は、提出者については団体名さえ非公表で、内容も一部の意見だけを選んで概要を公表しただけ。これではどのような意見が寄せられ、対応したのか外部からは検証できない。事務局は「有識者会議の構成員や、個人情報保護委員会などのオブザーバーにも教えていない」という。

 パブコメの本来の目的は、行政運営の公正さと透明性確保だ。政省令の改正などで新たに国民の権利を制限したり、義務を課したりする場合には、行政手続法に基づく必須の手続きとなるが、今回の「留意事項」のように任意で行われるパブコメも多い。その場合でも多くの省庁は、各意見に対して事務局の考え方を示す「パブコメ返し」などを行った上で、パブコメ結果を踏まえた修正案を有識者会議などにはかって透明性を確保することが一般的だ。

 石井教授は「締め切りからわずか4日後には確定版を公表し、意見をちゃんと検討しようというスケジュールになっていない」と指摘する。形だけ国民の声に耳を傾けたという「ポーズ」のようにも見えるのだ。

 石井教授がパブコメの適正な取り扱いにこだわったのは、この「留意事項」が扱う教育データ利活用は、「憲法で保障された内心の自由や、プライバシー、個人情報保護などの子どもの権利にかかわる重要な内容で、本来、国民の意見に耳をしっかり傾ける必要があるテーマ」と考えているからだ。

 例に挙げるのが、東京都渋谷区教育委員会の「教育ダッシュボード」事業。区教委では、小中学生に配布した学習端末の閲覧・検索履歴や学力テスト、意識調査などのデータを昨秋から統合し、多面的な分析を始めた。一人一人の子どもの状態が一覧できるページも用意され、学外で端末を利用している時間帯も含め、どんなサイトを見ているのかも、「自殺」などの危険なキーワードをいつ何回検索していたのかもすぐわかる仕組みだ。

 目的は「児童生徒の指導・支援や学校運営の改善など」。実際、表面上は異変が読み取れない子どもが、何千回も自殺に関する言葉を検索しているケースもあり、「これまで救えなかった子どもを、データによって救うことができるかもしれない」と区教委は期待する。

 ただ、閲覧履歴などを全て把握することは、心の奥底に踏み込むことに近い。石井教授は「データが子どもの見守りに有効なことは疑いようもないが、閲覧履歴などは非常に機微性の高い情報で、網羅的に収集すれば子どものプライバシー侵害にあたる恐れが否定できない」と懸念する。

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