Wednesday, March 29, 2023

パーキンソン病の発症の源流を解明 - 大阪大学 ResOU

大阪大学大学院医学系研究科鐘其静特任研究員、池中建介助教、望月秀樹教授(神経内科学)らの研究グループは、PD患者にPIP3というリン脂質が蓄積することが、PDの原因と考えられてきたαシヌクレイン(αSyn)の異常な凝集体(レビー小体)の原因となることを明らかにしました。これまで、約1割程度のPD患者さんでは、グルコシルセラミドという糖脂質が脳で蓄積してαSynが凝集することが知られていましたが、それ以外のPD患者さんにおいてαSynが凝集蓄積する理由は解明されていませんでした。

今回、研究グループは、αSynに結合して凝集を促進する脂質をスクリーニングし、PIP3が強くαSynに結合し、パーキンソン病患者の脳内で溜まっているαSyn凝集体と形や性質が類似する凝集体を作ることを見つけました。さらに、神経細胞や線虫においてPIP3が蓄積する環境を再現すると、リソソームやシナプス終末といった、PD患者でαSynの凝集が高頻度にみられる細胞内器官にαSynが凝集することを示しました。亡くなられた患者さんの脳組織を見てみると、PIP3が、脳幹という病初期からαSynが蓄積する場所でPIP3の量が増えており、αSynと一緒に凝集していることを明らかにしました。これまで大部分が不明であった患者脳内でαSynが凝集を開始する原因の一つが明らかになり、新しい治療の可能性が見えてきました。

本研究成果は、2023年3月20日(日本時間)に欧州科学誌「Acta Neuropathologica」(オンライン)に掲載されました。

図1. 過剰なPIP3がαSynと結合してレビー小体を作る

これまで、パーキンソン病の原因にαシヌクレイン(αSyn)の凝集(レビー小体)が中心的な役割を果たしていることが広く知られていました。しかし、なぜαSynが凝集蓄積するのか十分に分かっていませんでした。およそ1割程度の患者さんでは、遺伝的に糖脂質のグルコシルセラミドが蓄積しやすい体質をもち、過剰なグルコシルセラミドがαSynと結合して凝集を起こすことが知られていましたが、それ以外の9割の患者さんの原因は不明でした。しかし、研究グループは、残りの患者さんたちのレビー小体にも、αSynの凝集と一緒に何らかの脂質が蓄積していることは、以前の研究で見出していました。そこで研究グループは、脂質がαSynの性質を変えて凝集させるという仮説を立てました。

池中助教らの研究グループでは、αSynと結合する脂質をメンブレンストリップ法で探索したところ、ホスファチジルイノシトール3リン酸(PIP3)が強く結合することを見出しました。さらにPIP3とαSynを混ぜたところ、αSynが異常な構造をもつ凝集体を作ることがわかりました。この凝集体の形や性質を調べたところ、いくつかあるαSynが蓄積する病気の中で、特にパーキンソン病患者さんの脳内で蓄積するαSyn凝集体と形や性質が類似していることを明らかにしました。次に、培養細胞や神経細胞においてPIP3が蓄積する処置をすると、リソソームやシナプス終末といった、実際の患者さんでαSynが凝集を開始する場所においてPIP3と一緒に凝集蓄積するαSynが観察されました。患者さんの脳組織のPIP3の量を、質量分析や免疫染色を用いて測定したところ、PD患者において過剰に蓄積していることがわかりました。さらに免疫染色でαSyn凝集体とPIP3が一緒に凝集していることを示しました。これらの結果から、PIP3の過剰な蓄積が、PD患者においてαSynのレビー小体形成のきっかけになっていることを示唆し、これまで明らかにされてこなかったαSyn凝集のきっかけの一部を解き明かしたことになります。

本研究成果によってαSyn凝集のきっかけが解き明かされたことで、PIP3がPDのバイオマーカーの可能性やPIP3の過剰な蓄積を抑える治療や、αSynとの結合を阻害する治療といった全く新しい治療戦略が今後展開されるものと考えます。

本研究成果は、2023年3月20日(日本時間)に欧州科学誌「Acta Neuropathologica」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Phosphatidylinositol-3,4,5-trisphosphate interacts with alpha-synuclein and initiates its aggregation and formation of Parkinson’s disease-related fibril polymorphism”
著者名:Chi-Jing Choong1, César Aguirre1, Keita Kakuda1, Goichi Beck1, Hiroki Nakanishi2, Yasuyoshi Kimura1, Shuichi Shimma3, Kei Nabekura1, Makoto Hideshima1, Junko Doi1, Keiichi Yamaguchi4, Kichitaro Nakajima4, Tomoya Wadayama1, Hideki Hayakawa1, Kousuke Baba1, Kotaro Ogawa1, Toshihide Takeuchi5, Shaymaa Mohamed Mohamed Badawy1, Shigeo Murayama6, Seiichi Nagano1, Yuji Goto4, Yohei Miyanoiri7, Yoshitaka Nagai5, Hideki Mochizuki,1*, and Kensuke Ikenaka1*(*責任著者)
所属:
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 神経内科学
2. 株式会社リピドームラボ
3. 大阪大学 大学院工学系研究科 生物工学専攻
4. 大阪大学 大学院基礎工学研究科 機能創成専攻
5. 近畿大学 医学部 内科学教室 脳神経内科部門
6. 大阪大学 大学院連合小児発達学研究科附属子どものこころの分子統御機構研究センター、ブレインバンク・バイオリソース部門
7. 大阪大学 蛋白質研究所 蛋白質次世代構造解析センター高磁場NMR分光学研究室
DOI:https://ift.tt/De5dMPI

本研究は、JST戦略的創造研究推進事業「細胞外微粒子に起因する生命現象の解明とその制御に向けた基盤技術の創出研究」、AMED疾患基礎研究事業部「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」、および大阪大学産学連携プロジェクトMEETの一環として行われました。

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