Saturday, March 4, 2023

南海トラフ巨大地震の「震災関連死」7万6000人の可能性も ... - nhk.or.jp

地震のあとの避難生活による体調の悪化などが原因で亡くなる「震災関連死」。
南海トラフ巨大地震が発生した場合の死者数を専門家が試算した結果、最悪の場合、7万6000人に上る可能性があることが新たにわかりました。
国の被害想定には具体的な人数はなく、専門家は「大きな犠牲が出る可能性を踏まえ、社会全体で対策に取り組む必要がある」と指摘しています。

大きな地震のあと、生活環境の悪化やストレスが原因で亡くなる「震災関連死」は、12年前の東日本大震災では、去年3月末の時点で3789人となるなど、過去の地震で相次いでいます。
一方、国は、南海トラフ巨大地震が起きた際の最悪の場合の死者を32万3000人と想定していますが、「震災関連死」は、この中に含まれていません。
南海トラフ巨大地震で「震災関連死」はどれほどの規模になるのか。
災害事例の分析が専門の関西大学の奥村与志弘教授は、過去の災害時に避難した人の数と関連死の発生件数との関係から初めて試算しました。
その結果、最悪の場合、7万6000人に上る可能性があることがわかりました。
東日本大震災のおよそ20倍に上るという結果です。
この試算は、全国でおよそ950万人の避難者が出た想定で行われました。
奥村教授は、多くの死者が出る試算について、広い範囲でインフラに被害が出て停電や断水が長期化する上に、避難所や自宅での避難生活が長引き、適切な医療や介護を受けられない状態になることが大きな要因として考えられるとしています。
その上で、「関連死の原因は、多岐にわたっていて、一人一人を取り巻く環境を変えていかないかぎり減らせない。大きな犠牲が出る可能性を多くの人が認識し、社会全体で対策に取り組む必要がある」と話しています。

【「フローチャート」分析】
関西大学の奥村与志弘教授は、東日本大震災に加え、1995年の阪神・淡路大震災、2004年の新潟県中越地震、2016年の熊本地震で発生した関連死を詳しく分析しました。
例えば、東日本大震災の際、宮城県気仙沼市で震災関連死と認定された人のうち、109人の記録を分析したところ、死因の70%余りが肺炎などの「呼吸器系疾患」と心不全などの「循環器系疾患」で、その要因は複雑に絡み合っていました。
こうした事例を集め、死因と死につながる間接的な要因などを結び付けて可視化する「フローチャート」を作りました。
その結果、改めて見えてきたのは、避難生活の環境の悪さが関連死につながった可能性があることです。
その一つが、トイレです。
例えば、断水で水がなくなると水洗トイレが使えなくなり、「劣悪なトイレ環境」に陥ります。
すると、トイレに行きたくないと「排泄回数を減らす」ため、「水分摂取を控える」人が出始めて、「脱水症状」を起こします。
その結果、「口腔内の細菌が増え」、それが原因で「誤えん性肺炎」を引き起こし。亡くなる人が出てくるのです。
「偏った食事」も要因のひとつです。
「栄養が偏って」、「高血圧」が進行する人が増え、「循環器系疾患」につながりやすくなります。
また、避難所での「雑魚寝」も要因です。
床で寝ることで、大きな「ストレス」を受け、「睡眠不足」に陥ります。
その結果、「体力や免疫力が低下」して、「呼吸器系疾患」を引き起こす人が出てくるのです。
この他にも、「医療機能や介護サービスの停止」、「地震への恐怖」、「意欲の低下」など、さまざまな条件が重なることで関連死につながっていました。
奥村教授は、今後、こうした要因をさらに詳しく分析して、対策に生かしたいとしています。

【「震災関連死」防ぐカギは“TKB”】
「震災関連死」を防ぐために、医師や専門家が必要だと指摘するのが、災害時の避難所の「TKB」。
「トイレ・キッチン・ベッド」の略です。
「トイレ」は、汚いトイレを避けて清潔なトイレにすること、「キッチン」は、冷たく栄養の不十分な食事を避けて温かい食事を提供すること、「ベッド」は、床での雑魚寝を避けて就寝環境を整えることなどを指しています。
このうち、各地の災害で導入が広がりつつあるのが、避難所への段ボールベッドの導入です。
その自治体の一つが兵庫県南あわじ市。
南海トラフ巨大地震が起きると、最大震度7の激しい揺れや8メートルを超える大津波が想定されています。
市は、簡易ベッドや段ボールベッドおよそ500台を市内の倉庫に備蓄し、足りない場合にはメーカーから段ボールベッドの提供を受ける協定も結んでいます。
しかし、南海トラフ巨大地震では、避難する人が最大およそ9000人に上ると想定される上、淡路島と関西や四国を結ぶ橋が通行止めになると、ベッドが届かなくなるおそれもあります。
そこで、市が目をつけたのが、淡路島名産のたまねぎを生産する農家らの協力です。
市内の農協が、野菜を出荷するために使うケースを60万個、段ボールを20万枚保有しているということで、このケースや段ボールを使用することで即席のベッドを作ることを検討しています。
南あわじ市危機管理課の沖冴紀主事は「市では高齢化も進んでいるため、避難生活で命を失わないよう、よりよい環境の整備を進めている。避難者すべてのベッドを備蓄で確保するのはスペース的に難しく、今ある資源の有効活用で対策を進めていきたい」と話しています。

【専門家 “社会全体で対策を”】
関西大学の奥村与志弘教授は、関連死を減らすには行政や医療関係者の対策だけでは不十分で、企業や住民なども協力して、社会全体で対策を進めることが必要になると指摘します。
奥村教授は「関連死は、体調を崩した人にどういう医療措置が必要かという問題だけでなく、一人一人を取り巻く環境を変えていかないと根本的に数を大きく減らすというのは難しい。大きな犠牲が出る可能性があるということを1人でも多くの人や多くの企業、多くの関係者が認識し、それぞれの立場でできる対策を進めていくことが大事だ」と話していました。

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