[ロンドン 10日 ロイター BREAKINGVIEWS] - フランスの自動車大手ルノーは、前進するためにいったん素早く後退しなければならない。ルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)にとって、事業構造を解体する複雑な分社化プロセスを進めるには日産自動車の承認と資金が必要だ。ルノーの日産に対する出資比率引き下げは、その対価として十分な価値がある。
両社と三菱自動車の3者連合は2026年までにプラットフォーム共用化率を80%まで高めたい意向で、そうなるとルノーと日産は完全に経営統合するのが最も論理的な道筋とも言える。しかし元日産会長カルロス・ゴーン被告を巡るスキャンダルや、フランス政府がルノーの経営に大きな発言力を維持している点を考えると、統合実現の可能性は乏しい。もう一つの頭痛の種は一方的に偏った企業統治構造だ。ルノーが日産の株式43%を保有しているのに対して、日産はルノーに15%出資しているものの、フランスの会社法によってルノーへの議決権行使が禁止されている。
そこでデメオ氏が望んでいるのは、ルノーを電気自動車(EV)と内燃エンジン車の2つの会社に切り分け、それぞれに中国の吉利汽車など別のパートナーを資金提供者として呼び込む方法だ。これは日産の支持が不可欠で、日産自身もルノーのEV新会社に出資するかもしれない。ルノーはそれと引き換えに日産の持ち株をある程度手放すことになる可能性がある。
日産にとっても変革を推進するのに適した時期になった。今年3月までの年度のグループ売上高は前年度比7.1%増と、ゴーン被告が2018年に会長職を外され、翌年に取締役を解任されて以降初めての増収を確保した。手元資金は1兆3000億円(89億ドル)に達しており、これを自社株買いに回すことができるかもしれない。まだ現実化していないルノーのEV新会社と関係を結び、これを強化すれば、日産にとっては新技術開発コストの分散にもつながる。
ルノーが日産に対する支配力をやや手放すのはルノーにとってより難題にも見える。ルノーが日産への出資比率を15%まで引き下げた場合、日産はルノーに対し議決権を持てるようになる。親会社から40%以上の出資を受ける子会社は親会社に対する議決権を持てないというフランスの会社法の規定が適用されなくなるからだ。つまり、ルノーの株式15%を保有するフランス政府が、日産への影響力を弱めることになる。
それでも、そうした構想は理にかなった取引だ。RBCのアナリストチームの試算では、ルノーの本来の事業価値は時価総額で105億ユーロが妥当。現実の90億ユーロ強というルノーの時価総額が意味するのは、保有する日産株がほとんど価値評価されていないということだ。ルノーが出資比率を15%に下げれば、その売却で税引き前で40億ユーロ近くもの資金が手に入ることになる。
さらに重要なのは、ルノーが何らかの取引を必要としているという事実だ。世界中の自動車メーカーは電動化に向けて再編モードに入っている。例えばプジョーとフィアット・クライスラーが合併してステランティスを誕生させたように。ルノーの分社化計画もそれなりに筋が通った次善の選択肢にはなる。日産を味方として維持することは、そのために欠かせない妥協に思われる。
●背景となるニュース
*ルノーと日産自動車は10日、企業連合の運営を巡って「信頼できる議論」を進めており、ルノーが分社化して設立する新たな電気自動車(EV)会社に日産が出資を検討すると発表した。
*日産はルノーに対して現在43%の出資比率を15%程度まで引き下げるよう求めている。日産によるルノーの新EV会社への出資は、その見返りとして合意される可能性があるという。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
からの記事と詳細 ( コラム:ルノー、日産向け出資引き下げは分社化に必要な対価 - ロイター (Reuters Japan) )
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