Monday, October 31, 2022

コロナが招いた「過剰債務」の重荷~読売・帝国データ共同調査より - 読売新聞オンライン

 読売新聞と帝国データバンクは2022年8月、2回目となる「コロナ関連融資に関する共同調査」を実施した。返済に不安を感じる企業の比率は12・2%で、前回調査(20年2月)の9・0%から上昇した。借り入れた企業の半数近くはまだ借金の1割も返済していない。「過剰債務」の解消はこれからが剣が峰だ。 新型コロナウイルスの感染拡大は、中小企業の多い飲食店や旅館などに大打撃を与えた。さらに資源・エネルギー、食料の高騰という逆風も強まっている。23年年末までに、コロナ融資を借りた企業の9割以上で返済が始まる。経営への影響はどうか。日本経済の土台を支える中小企業の経営は持続可能なのか。共同調査の結果を交え、企業金融の課題を検証する。

 コロナ関連融資は、新型コロナウイルスの感染拡大で悪化した企業の資金繰りを支えるため、さまざまな公的制度に基づいて、2020年度から本格的に実施された。金利減免や最長5年の元本返済猶予など、各種の優遇措置が設けられた。政府系金融機関による低利の「危機対応融資」のほか、公的な利子補給や信用保証制度を組み合わせて実質的に無利子・無担保とした「ゼロゼロ融資」もある。これらの制度融資は、20年3月ごろから、官民の金融機関を通じて貸し出しが始まった。コロナで業績が急激に悪化した企業の多くにとってコロナ融資は、廃業や倒産を回避する命綱となった。

 その規模は巨額だ。財務省によると、民間金融機関と政府系金融機関を合わせたコロナ関連融資額は、20年4月の初めは累計2兆円弱だったが、半年後の9月は40兆円に迫る規模に急拡大した。大手金融・りそなグループの総融資残高に肩を並べる巨額資金が、わずか半年で新規に貸し出されたことになる。その後もペースを落としながら増加を続け、21年9月ごろに60兆円近くでほぼ頭打ちになった(注1)。

 目を引くのが21年3月末前後の動きだ。一度は減速したコロナ融資額の増加が再加速している。政府系金融機関はなだらかな増加に変化はなかったが、民間金融機関は目に見えて増加ペースが上がり、4月後半に急ブレーキがかかった。民間のゼロゼロ融資の受け付けが21年3月末で終了するのを前に、駆け込み的な申し込みが増えたのだろう。実際に融資が実行されるまでのタイムラグを経て、4月に融資の急増に歯止めがかかったようだ。資金繰りが厳しくなりがちな年度末特有の動きと見ることもできる。

 ただ、当時のコロナ感染状況を勘案すると、不自然さは拭えない。2月は既にコロナ第3波のピークを越えていた。2月末に大阪や兵庫など感染状況の落ち着いた6府県の緊急事態宣言が前倒しで解除され、3月21日に全国で全面解除された(注2)。コロナが原因で新たに資金繰りに窮する企業が続出したとは考えにくい。21年3月末前後になぜコロナ融資が急増したのか。この疑問は、別の項で改めて考察したい。

 2回目のコロナ関連融資調査の結果を見ていこう。コロナ融資を利用したと答えた企業は、既に全額返済した企業を含めて50・5%と過半数を占めた。前回調査(2022年2月実施)とほぼ同じ水準である。前回調査以降、新規借り入れのニーズはほとんどなかったようだ。政府はこれまで、コロナ向け融資の原資として、巨額の財投融資資金を計上してきたが、23年度予算ではそうした異例の対応は不要となるだろう。

 ただ詳細に見ると、そもそもコロナ融資の利用率が高い一部の業種では、「現在借りている」と答えた企業の比率が前回より大きく上昇した。例えば「繊維・繊維製品・服飾品小売り」、つまりアパレルの小売りは73・7%で前回より10ポイント以上高い。「旅館・ホテル」は75・9%で前回比5ポイント以上高く、「飲食店」も74・2%で同2ポイントほど高い。今回調査の期間中、感染力の強いオミクロン株の流行で新規感染者数や死者数は高水準で推移した。感染拡大の影響を受けやすい一部の対面型サービスや小売業では、業績や資金繰りの厳しさが増したとみられる。企業の資金繰り支援は、業種や地域ごとの情勢を精査して、きめ細かく行う必要がある。

 コロナ関連融資の返済状況はどうなっているか。調査では63・1%の企業が「条件通り返済している」と答えた。これに対し、返済額減額や延滞などをしているとの答えは1・8%にとどまった。まずは順調に返済が進んでいると見ていいだろう。

 ゼロゼロ融資は、公的機関が3年間利子を負担し、元本返済も最長5年猶予される。ただ、この返済の「据え置き期間」を1~2年に設定している企業が多いとの見方もある(注3)。

 資金繰りに余裕のある企業の多くが、できるだけ早く負債を削減しようと、着実に返済を進めているのだろう。共同調査の自由回答欄には、当面の資金繰りに余裕はあるが、コロナ禍の先行きが見えないことから、念のためコロナ関連融資を利用した、とする記述も目立った。無利子期間が終わる前に一括返済するとの声も少なくない。

 一方、業種によっては、条件通り返済している割合が低く、返済開始時期も遅い。典型的なのが、「旅館・ホテル」である。条件通り返済している割合は39・7%と、全体平均の63・1%よりかなり低く、返済開始時期は他業種よりも遅い。返済を減額・延滞している比率も6%台と、平均の4倍近くに上った。

 これから返済が始まる企業の開始時期は、全業種の平均で2022年末までが5・6%、23年中が21・6%、24年以降が6・2%だった。23年に返済開始の大きな山場を迎えることになる。業績回復の遅れている企業が円滑に返済を進められるか、不透明感は強い。

 コロナ融資を受けた企業の6割以上が既に返済を始めたとはいえ、実際に返済を終えた金額は少ない。コロナ融資を受けている企業のうち、融資の5割以上を返済し終えたと答えた企業は13・3%にとどまった。一方、返済額が1割未満の企業は未返済を含めて46・6%に上った。債務解消の本番は、まさにこれからなのである。

 コロナ禍をきっかけに、日本企業の債務はどれほど増えたのか。コロナ融資に限らず、日本の民間金融の全体的な状況を統計で確認しておきたい。

 日本銀行の統計「貸出先別貸出金」によると、国内銀行、信用金庫、その他金融機関を合わせた民間金融機関の「総貸出残高」は、国内で新型コロナ患者が確認される前の2019年12月末は646兆円だった。20年4月に緊急事態宣言が出され、コロナ融資が本格実施されていた20年6月末には683兆円へと大きく増えた。残高はわずか半年で40兆円近く膨らんだことになる。

 その後も増加傾向は続き、22年6月には712兆円に上った。22年以降の残高増加は、「ウィズ・コロナ政策」への転換で社会経済活動が再開し、事業拡大のための資金需要が高まったことが一因だろう。一方で、資源・食料高や円安によるコスト高で、資金繰りが厳しくなった企業が増えたことも影響していよう。いずれにせよコロナ後の2年半で残高は約10%、金額にして67兆円も拡大した。

 パンデミック(感染爆発)の危機を切り抜けるカンフル剤として実施されたコロナ融資で、企業への貸出金が20年上半期に一気に増え、その後も高水準のまま増え続けていることがわかる。

 製造業も非製造業も平均すれば、コロナ時代の残高増加率は10%程度で、大きな差は見られない。ただ、詳しく見ると、コロナ禍で大打撃を受けた業種の残高増加が際立っている。

 例えば、外出自粛の影響や入国制限によるインバウンド需要の消失で苦境に陥った宿泊業だ。コロナ拡大前の19年12月末の借入残高は全国で3兆4700億円だった。これが22年6月には4兆3900億円と、1・3倍に増えた。営業の自粛や時間短縮を迫られた飲食業は4兆300億円から6兆3400億円になり、残高は1・6倍に膨らんだ。コロナ・ショックが直撃した業種が重い負債を抱えていることは、金融関連の統計からも明らかだ。

 では、債務の「過剰」は日本全体ではどれほどの規模なのか。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、21年平均で47兆円にのぼると推計している(注4)。この推計は、民間非金融法人の借入残高(日銀、資金循環統計)の対名目GDP(国内総生産)比の推移をたどり、その上昇トレンドから上振れしている部分を「過剰債務」とみなして算出している。

 過剰債務の規模は債務全体の約1割にあたる。コロナ後、企業の借入残高が製造業、非製造業ともに1割程度増えていることを考えれば、コロナ後の債務増加が「過剰債務」の主な要因であると推察できる。

 ここにきて、コロナの影響にとどまらず、企業の経営環境は厳しさを増している。21年からの世界的な資源・エネルギー高、食料高に、ロシアのウクライナ侵略が拍車をかけた。企業の輸入コスト負担は、円安によって加速度的に増している。仕入れ価格の上昇で利益が急減した企業では、将来不安に備えて「念のために手元資金を厚くしよう」と思って借りたコロナ融資の資金を、日々の仕入れなどに回さざるを得なくなったケースもあるのではないか。

 コロナに加えて、コスト高、円安というショックが企業に波状的に襲いかかっている。こうした危機がなければ健全に経営を続けられた企業が持ちこたえ切れなくなるリスクが高まっている。

 コロナの影響が軽微な業種では手元の現金・預金が潤沢で、多額の利益剰余金(内部留保)が積み上がった企業が多い。一方で、過剰な債務を負って経営の先行きに不安を持つ企業も少なくない。コロナ禍が、企業の規模や業種による格差を拡大させたことは確かだろう。

 コロナ関連融資によって多くの企業が資金繰りを支えられ、倒産を回避できたことは間違いない。コロナ後の倒産動向を確認してみよう。

 2020年4月に初めての緊急事態宣言が出され、全国的に経済活動が大きく制限された。それでも企業の倒産件数は低水準で推移した。帝国データバンクの全国企業倒産集計によると、コロナ感染が広がった20年の倒産件数は7809件、21年は6015件だった。21年は1966年以来55年ぶりという歴史的な少なさだ。

 倒産件数は、コロナ融資が本格化した20年4~6月期から8四半期連続で前年同期を下回った。この歴史的な「低倒産局面」に、変調の兆しが出ている。

 22年4~6月期の倒産件数は1548件で、2年3か月ぶりに前年同期を上回った。その背景には、仕入れ価格の上昇を販売価格に転嫁できずに、利益が確保できなくなる「物価高倒産」の急増がある(注5)。特に、価格決定力の弱い中小零細企業を中心に、物価高倒産が増える恐れがあるという。

 コロナによる過剰債務問題が本格化するタイミングでコスト高という新たな試練が企業経営を脅かしている。コロナ融資からの「出口戦略」を周到に進め、倒産の急増を防がねばならない。

 コロナ関連融資は、パンデミックの打撃を緩和する緊急・異例の措置だったとはいえ、融資である以上、公的金融機関も民間金融機関も、しっかりと返済を求めていくことになる。

 コロナ融資の出口戦略を考える際に、最も大切となるのは、官民の金融機関が融資先の財務や事業内容、将来性などを的確に見極める「目利き力」をきちんと発揮することだ。一時は返済が滞ったとしても、金融支援によって事業を継続した方が経済・社会にとって有益な企業なのか、それとも追加融資などの支援は行わず、廃業・倒産を選択するべきなのか、見極めることが欠かせない。

 コロナ感染が広がらなくても実質的に倒産状態に陥っていたはずの企業、いわゆる「ゾンビ企業」を、コロナ融資がいたずらに延命させたとの指摘もある。帝国データバンクの推計によると、コロナ禍に見舞われた2020年度のゾンビ企業は、経営実態を実地調査で確認できた企業の約11%にあたる16・5万社に上ったという。コロナ前より約2万社増えている(注6)。生産性が低い、将来性が乏しい、社会的な貢献度が低い、といった問題を抱えた企業に漫然と追加融資を続けて生き残らせることは、日本経済の活性化や再生の妨げともなるだろう。

 とはいえ、企業の選別や破綻処理を性急に行うのは危険だ。連鎖倒産や不良債権拡大による金融システムの混乱、雇用不安など、様々な問題を引き起こす可能性がある。景気への影響を見定めると同時に、転職支援や職業訓練の充実など適切なセーフティーネット(安全網)を準備して、慎重に進める必要がある。

 コロナ関連融資では、金融機関が調達した資金を貸し出す「間接金融」が企業の資金繰りを支え、倒産回避などに威力を発揮した。その一方で、金融機関が融資を通じて産業を育成し、地域経済の発展を図るビジネスモデルがうまく回らなくなっているのも事実だ。超低金利時代が続き、間接金融の収益源である利ざやが大きく縮小したためだ。大手銀行を中心に利益を稼ぐ主戦場は、かつての間接金融から市場での調達・運用を柱とした直接金融に移行しつつある。利益を上げて企業価値を高める責務を負った個々の金融機関としては、合理的な判断と言えるだろう。

 ただ、コロナ融資の利用率が5割を超えたことからもわかるように、特に中小企業にとっては、金融機関による間接金融は事業を継続するための命綱である。「経済活動の血流」を担う間接金融の意義は依然として大きい。金融機関が利益確保を図りつつ、伝統的な間接金融の機能をどう維持していけばいいのか。大手銀行と地域金融機関の役割分担を含め、中長期的な課題として官民で真剣に検討すべきだ。

 最後に、コロナ関連融資を巡る金融機関の営業姿勢について、問題点を指摘したい。気がかりなのは、今回の共同調査の自由回答欄に、「借りるつもりはなかったが、銀行に頼まれてコロナ融資を借りた」との回答が少なくなかったことだ。金融機関が「念のために」という親切心から借り入れを勧めた可能性もある。ただ、回答欄の記述を見ると、そういうケースばかりではないように思える。

 「金融機関からの要望で借りているだけで、借り入れの必要性はなかった」(東北・建設業)

 「銀行に頼まれただけなので、利子が発生する直前に全額返済する」(東海・機械器具卸売業)

 これらの回答からは、企業側は「万一の備え」という意義すら感じていなかったことがうかがえる。

 「銀行の貸付残高維持に貢献するだけの借り入れとなっている」(九州・機械製造業)との記述もあった。無利子のコロナ融資を企業が借りることが、なぜ銀行への貢献になるのか。補足説明しよう。

 ゼロゼロ融資は、借り手にとっては一定期間、無金利だが、公的資金で利子分が支払われ、金融機関は当初から利子収入を受け取れる。資金繰りに困っていない企業に、金融機関が頭を下げて借り入れるよう依頼した動機が、この利子収入の獲得があったとすれば、公的融資制度に便乗して金融機関が自らの収益拡大を図ったと受け取られても仕方がない。取引先の企業が不要と考えていた借金を、金融機関の都合で背負わせることは、金融庁が金融界に求めている「顧客本位の業務運営」の趣旨にも反する。

「借り入れ依頼」の実態解明を

 実際に巨額のコロナ融資による利子収入が、低金利政策で苦境に陥っていた金融機関の経営に、追い風となったのは事実である。

 新型コロナの感染拡大が本格化する前の2020年3月期、上場する地方銀行の70%以上が減益・赤字決算だった。コロナ融資が拡大した21年3月期には減益・赤字の地銀の割合は50%弱に下がった。さらにコロナ融資が膨らんだ22年3月期には、減益・赤字が16%にまで減る一方、増益・黒字転換の地銀が84%を占めた(注7)。

 新型コロナの感染拡大とともに銀行業績が回復した原因については、さまざまな要因が指摘されている。その一つが、貸付利子などの収益から預金利息などの調達費用を差し引いた「資金利益」の改善だ。金融庁の「地域銀行の決算の概要」によると、非上場を含む地域銀行(地方銀行、第二地方銀行、埼玉りそな銀行)の資金利益の合計は、09年3月期から20年3月期まで12年連続で減益だった。低金利政策のあおりで、利ざやが縮小したのが主な要因とみられる。ところが、コロナ融資が本格的に始まった21年3月期に0・8%の増益に転じ、22年3月期は2・6%に増益率がアップした。コロナ融資による融資残高の急増によって公的な利子補給を含む金利収入が増えて、銀行の利益を押し上げたことは間違いない。

 民間金融機関によるゼロゼロ融資の受け付けが終了した2021年3月末の前後、コロナ感染が落ち着きつつあったのに民間のコロナ融資は急増していた。この一時的なコロナ融資急増と、不要なコロナ融資を借りるよう、金融機関が企業に頼んでいたことに関連性はあるのだろうか。金融機関が自らを利するため、顧客企業に対しコロナ融資の本旨に沿わない借り入れを依頼していたとすれば、問題である。

 いずれにせよ、金融機関が企業に頼んで、必要のない借金を負わせるのは不適切だ。金融機関の営業姿勢のモラルハザードに関わる問題なのだ。政府に実態の解明を求めたい。

Adblock test (Why?)


からの記事と詳細 ( コロナが招いた「過剰債務」の重荷~読売・帝国データ共同調査より - 読売新聞オンライン )
https://ift.tt/XNnuOZQ
Share:

0 Comments:

Post a Comment