健康的な生活習慣は、生活にハリをもたらし、生産性を上げてくれるもの。
一方で、行きすぎた健康志向は日々の思考や行動をがんじがらめに制限し、新たな弊害を生む懸念も。極端に聞こえるかもしれませんが、そうした人々が増えているのも事実なのだそう。
本記事では、過度な健康志向が引き起こす「オルトレキシア」について、その兆候や向き合い方を専門家による解説や当事者の体験談を交えてご紹介します。
※この記事は、診断の代わりとなるものではありません。症状について不安がある場合には、必ず医師または資格を有する医療従事者の助言を仰いでください。
オルトレキシアとは?
オルトレキシアとは、健康的な食事を意識し過ぎて強迫観念に陥った状態を表す言葉。
スポーツ栄養士であり、摂食障害の専門家でもあるレニー・マックレガーさんは、次のように解説します。
「多くの場合は、その人が“クリーン”だと思う食べ物だけをひたすら食べようとします。そのため、特定の主要な栄養素を確保するために莫大なお金をつぎ込んだり、特定の食材を口にするのを恐れる強迫観念を抱いたり、それによって日常生活に影響が出ることもあります」
リアノンさん(ロンドン在住・22歳)の場合
実際にオルトレキシアを経験したリアノンさんは、当時の様子について次のように振り返っています。
「日常が健康志向に“浸食されている”と気づいたのは、大学2年生の頃でした。『クリーンイーティング』という概念に取り憑かれていたんです」
「それからの私は、特定の食品は全く口にしなくなりました。油、チーズ、バターは厳禁。炭水化物も同様で、ピザ、パスタ、パンには手をつけませんでした。ライスケーキをトースト代わりに、カリフラワーをお米の代わりにしていたんです。糖質もカロリーもゼロで、まったく味気のないパスタに、ばかみたいに高いお金を払っていました」
健康のために食生活を意識していたはずが、やがて“健康的な食事”が目的となり、その考えが社会生活や休暇、最終的には生活のすべてを占めるようになっていたのだとか。
「“健康的”でない食べものや、栄養素が含まれていないものを食べるのは、まるで体内に毒を入れているような気がしました」「そのうち、私の体は食べ物からエネルギーを得られなくなり、憂鬱な気分を感じて塞ぎこむように。友人や家族との関係もぎくしゃくしていきました。周りの健康的な人たちは、食は生活の一部ではあるものの、すべてを支配するほどではないようでした。でも私にとっては、ヘルシーな食事が生活のすべてで、ヘルシーであることがすべての“判断基準”だったのです」
オルトレキシアに関する研究
こうした状況に陥っているのは、リアノンさんだけではありません。この症状に関する詳しい研究はまだほとんど進んでいないものの、1〜7%の人がオルトレキシアに悩まされると予測した研究結果も存在しています。
専門家の見立てでは、クリーンな食生活を実践する人たちの投稿がSNSにあふれていることや、特定の食品を“悪”とみなすようなメディアや広告などの影響から、この数値は今後も上昇する可能性が高いと考えているそう。
認定心理学者で摂食障害セラピストのレイチェル・エバンスさんは、以下のように説明します。
「“完璧”な食事で、最大限ヘルシーになろうと熱心な人は、ある特定の食品群や、それまで好きだった食べ物を避ける傾向にあります。初めはより健康的な選択をするつもりが、やがてその食べ物が体に『良い』か『悪い』かだけを気にする、両極端の考えに変わります。そして自分に課した食のルールを破ったとき、圧倒的な罪悪感と羞恥心に苛まれることになるのです」
オルトレキシアの兆候
公認準栄養士のアイザ・ロビンソンさんによれば、摂食障害の症状は概して複雑でわかりにくく、さらに個人差もあるため、オルトレキシアの兆候も簡単には見分けられないのだとか。
しかし、その傾向を示す顕著なサインはあるとのこと。あなた自身が苦しんでいたり、身近な人が悩んでいると感じた場合は、以下の項目を確認してみましょう。
ヘルシーな食事への過剰な執着
オルトレキシアになると、ヘルシーと思われるものだけを食べようとする強迫観念にかられる場合がある、とレイチェルさんは説明。
「自分のように厳しい食事制限をしていない相手を責める気持ちが生じて、親しい人との関係を損なうケースはその典型です」「また、それまでの趣味や関心事よりも、クリーンイーティングやエクササイズ、“健康的な生活”を優先しがちになります。自身のそうした行動の変化にまったく気づかなかったり、あるいはその行動を弁護する姿勢が見られることもあります」
“純粋”な食品だけを食べようとする
アイザさんいわく、食事のルールは人によって異なるものの、オルトレキシアの人たちはその人にとって“純粋”な、あるいはオーガニックな製品しか口にしないのだそう。
厳しい食事制限
オルトレキシアの人々の中には、特定の食品群すべてを断とうとする人も多いのだそう。
「食事を厳しく絞り込み、“もっともヘルシーな”食品だけになるまで食事制限を続ける人も見られます」
厳格な食事の「ルール」
食事の「ルール」を厳しく定め、日常生活に影響を及ぼすケース。これは、オルトレキシアのかなり危険な兆候と言えそう。
「オルトレキシアの人々は、ヘルシーでないとみなした食べ物を避けるためには、どんなことでもするでしょう」
たとえば、リアノンさんは体調が良くないときにハンバーガーチェーンに誘われた場合、咄嗟にハンバーガーを食べないための言い訳をしていたそう。
食事の「ルール」を破ることに不安を感じる
自分に課した食事の「ルール」を破ることに罪悪感やストレス、不安を感じたことがある人は、オルトレキシアの疑いがあるとレニーさんは言います。
「覚えておいてほしいのは、オルトレキシアの人にとっては、ルール厳守が重要だということです。そのルールを破ったとき、彼らは圧倒的な罪悪感を覚えます」
時には過ちを正そうとして、過度なエクササイズや食事制限に走ってしまうこともあるのだそう。
外食を避ける
上記に関連して、外食や社交的な集まりを、まったく楽しめなくなってしまうケースも。
「普段の生活において、レストランでの食事、あるいは人が作った料理を受け付けにくくなります」
なぜなら、オルトレキシアの人は調理も含めて、食事は自分自身で管理しなければならないと思っているからなのだとか。さらにレニーさんもこのように説明。
「家族イベントのバースデーケーキ、旅行中にビーチで買うアイスクリーム、ディナーパーティーでのコース料理など、オルトレキシアを患う人は、自分のルールに反した食事をしなければならない状況を何としてでも避けようとするのです」
気分が落ち込み、合併症を引き起こす
「食べ物を制限すれば、エネルギーが低下し、著しい気分の変化や不安、身体の健康に影響を及ぼすのは当然と言えます。食事制限やバランスの悪い食事を続けた結果、免疫力が低下したり、抜け毛を誘発したりする可能性もあるでしょう」
食物アレルギーを偽装したり、思い込んだりする
オルトレキシアの中には、特定の食品群を普段の食事から排除するため、医師に診断されていないにもかかわらず、グルテン不耐症や牛乳アレルギーといったアレルギーを偽ったり、そう思い込んだりする兆候も見られるそう。
こういったことも「危険信号」だと、レニーさんは警告しています。
「摂食障害を患っている人たちは、食べものを制限したり管理する理由として、アレルギーについて言及することがあります」
「グルテン不耐症だと言えば、出されたパスタに手をつけなくても、それほど不自然に思われなくなります。アレルギーや過敏症を装えば、たとえ他人と食事をしても、摂食障害である自分のルールを曲げずに済むというわけです」
オルトレキシアはなぜ起こる?
その他のメンタルヘルスの疾患と同様で、理由は人によって異なると言います。そのため、根本的な原因をきちんと理解するには、かかりつけ医や資格を持った摂食障害の専門家に相談する必要があるのです。
レニーさんは、「管理しなければいけないという思い」による「誤った安心感」が要因の一つになるとも指摘。
「しっかりとコントロールしようという思いから、食べものや食材、調理法、量など様々な面で自分にルールを課してしまうことがあります。 このルーティンを守ることで、“自分の生活を管理できている気持ち”になり平穏でいられるのですが、少しでも逸脱すると極度の不安に陥ったり、ストレスを感じてしまうのです」
「こうしたルーティンは、誤った安心感をもたらします。人には対処したくない、あるいは対処する方法がわからないといった、より難解な感情や不安感がありますが、そうした感情を打ち消すには、こうしたルールに従うことが基本的な手段となるのです」
自分に症状があると感じる場合
専門家たちは口を揃えて、「一番大事なのは、誰かに話すことです」とアドバイス。
信頼できる人に相談して、適切なヘルプラインや対策法を紹介してもらいましょう。日本摂食障害協会や、摂食障害全国基幹センターが運営するウェブサイトにある情報も参考になるはず。
また、「あなたは一人じゃない」ということも、どうか忘れないで。
大切な人に症状があると思う場合
繰り返しになりますが、オルトレキシアは他の精神健康障害と同じく複雑な問題です。だからこそ、耳を傾けるときは慎重になることが大切。
レニーさんによる、尋ね方の例は次の通り。
- 「この頃、あまり一緒にお茶してないね。最近調子はどう?」
- 「最近、いつもと様子が違う気がするけど大丈夫? あまり出かけないようだけれど、また一緒に遊べるといいな」
摂食障害者を支援するイギリスの慈善団体「Beat」によれば、オルトレキシアはまだ正式には精神疾患としては認められていないとのこと。
「オルトレキシアは健康に重大な被害を与える恐れがあるため、症状が見られた場合はすぐに専門家に相談するべきです。ですが、現在は独立した摂食障害とは認定されていません」
「こうした症状で病院を受診しても、『オルトレキシア』という正式な診断名がくだされるわけではありませんが、この言葉を用いて疾患の説明をすることはあります。詳細な症状によっては、拒食症やOSFED(他の特定される食行動障害または摂食障害)と診断されるかもしれません」
※この翻訳は、抄訳です。
Translation: Mari Watanabe(Office Miyazaki Inc.)
COSMOPOLITAN UK
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