Sunday, November 26, 2023

糸引く「デスマフィン」騒動で思い出す、ネット上を席巻した「食品・飲食トラブル」 伝説の「スカスカおせち」に、大人気商品への「ゴキブリ混入」問題も… - goo.ne.jp

デスマフィン

 11月11日〜12日に行われたアートイベント「デザインフェスタ」に出展した、「食品添加物不使用!」を謳う東京都目黒区の焼き菓子店「Honey×Honey xoxo」(ハニーハニーキス)のマフィンを食べた人々が体調不良を訴え、“食中毒事故”と認定された。同店は、当日販売したマフィン約3000個を自主回収すると発表。大イベントなだけに5日前から作っていたことも影響したと見られている。証言としては「納豆のように糸を引いていた」などがあった。これにより同店のマフィンは「デスマフィン」と呼ばれるようになった。そして11月21日に同社HPで「閉業」を明かした。

 最近の食品関連の事故でいえば、500人が食中毒被害を訴えた青森県八戸市の弁当店「吉田屋」も記憶に新しい。外注先がご飯の温度管理を誤ったため、冒頭のマフィン同様に糸を引いていたという。

 こうした食品・飲食関連の事故はネットで大いに話題になりがちである。そこで、過去にネットを騒がせた事故を振り返ってみる。私のようにネットの論調を分析することが仕事の人間からしても、これらの盛り上がりっぷりは凄まじかった。

一つの文化が終わった

【「ささやき女将」騒動】
 2007年、名店と名高い「吉兆」グループの「船場吉兆」が、消費期限・賞味期限の改竄や食材の使いまわしをしていたことが明らかになった。この際、湯木佐知子社長は、会見で隣に座った長男で役員の喜久郎氏に対し、発言内容をヒソヒソ声で伝えた。

「頭が真っ白になった」「責任逃れの発言をしてしまいました」といった助言がマイクに拾われたことから「腹話術みたいだ」といった感想を持たれた。結果的に船場吉兆は廃業に至るのだが、もしもこの「ささやき」騒動さえなければテレビを中心としたメディアが面白がらなかったのでは。そしてネットもここまでネタとして消費をしなかったのでは、と思う次第である。

【「殺人ユッケ」騒動】
 石川県金沢市に本拠を置く「フーズ・フォーラス」が運営する「焼肉酒家えびす」の各店舗で2011年、ユッケを食べた客181人が食中毒症状を発症し、5人が死亡した。この時、勘坂康弘社長(当時)は記者会見でいきなり土下座をしたことも「演技がかっている」との評を受けた。

 卸元の精肉店の問題も取り沙汰されたこの騒動だったが、結果的に同社は廃業し、破産手続きに移った。これ以後、各地の焼肉店ではユッケの提供を自粛するようになった。そして、2012年には牛生レバーの提供も食品衛生法に基づき、厚労省により禁止されるに至った。私の知り合いの焼肉屋店主は「杜撰な管理をするダメな店のせいで一つの文化が終わった」と嘆いていた。

サークルのノリかよ

【「スカスカおせち」騒動】
 2010年末、ネット界を席巻したのがこの騒動。「バードカフェ」がクーポン共同購入サイト「グルーポン」で販売したおせち料理が、元々の広告画像とは異なり「スカスカ」だと猛烈に批判を浴びたのだ。さらには「蓋を開けた瞬間すっぱい臭いがした」といった証言もあった。

 本来2万1000円の「33品・3段の豪華おせち」が、クーポンを使えば半額で買えるゾ! と評判になった。広告ではお頭付きのエビやイクラ、アワビなどが9等分された仕切りにギッシリと入っている様が紹介されたが、実際は4等分され、中身がスカスカ。「食べログ」に投稿された写真は「スカスカおせち」と呼ぶにふさわしいものであった。

 中身にしても「才巻海老の白ワイン蒸し」はバナメイ海老だったり、キャビアと称したものはランプフィッシュの卵。鹿児島産黒豚の京味噌漬けはアメリカ産豚肉を使用。焼き蛤に至っては入れていなかったのだ。

 しかも、若い従業員が髪の毛混入を防ぐ帽子もせず楽しそうにおせち詰め作業をしている風景をツイッター(現X)に投稿していたことから、「サークルのノリかよ」「この後どうなるかもしらないでw」的ツッコミも入った。この時は「6Pチーズ」も入っており、これが手抜きの象徴とされ、6Pチーズがネタ扱いされ、エラく風評被害を被るに至った。

パッケージ騒動

 グルーポンとおせちを巡っては、2014年11月13日にITmedia Newsが「もう“スカスカおせち”と言わせない――GROUPONが4年ぶりおせち販売、“ぎっしり”“遅れず”配送へ」という記事を出し、グルーポンが取引先の見直しをしたことを伝えた。

【コンビニチェーン「恵方巻ノルマ」騒動】
 毎年1月頃からのネットの風物詩といえば、恵方巻きに関するコンビニ従業員からの悲鳴である。各社が従業員に予約獲得のノルマを課し、家族や親戚や友人に頭を下げて予約してもらった、といった報告をするのである。

 そしてその度に「コンビニが無理矢理作り上げた文化だ」や「恵方巻なんて関西にしかない風習だったろうになんで全国的になったんだ」といった指摘がなされ、それに対して「かつて大阪の海苔の組合が販促のために始めた」といった蘊蓄を述べる者が登場する。そして、節分が終わると、廃棄された恵方巻の画像が投稿されるところまでが様式美として存在するのである。

【セブン-イレブン「パッケージ騒動」】
 コンビニ最大手・セブン-イレブンはとかくパッケージについてネットで叩かれがちな存在である。「パッケージ詐欺」と言われる手法なのだが、一つは「上げ底」である。グーグル画像検索で「セブンイレブン 上げ底」で検索すれば多数画像が出てくるが、とにかく量を少しでも減らす努力が凄まじいのである。いくら値上げに抵抗感がある日本人とはいえ、さすがに「値上げしていいから、量を増やしてくれ」という要望が出る。

シズル出しすぎ

 上げ底と並んで問題視されるのが「サンドイッチの断面」についてである。棚に並んでいるサンドイッチを見ると断面には豊富に具が入っているように見えるのだが、パンの大部分に具が入っていない。買った人の落胆たるや……、気の毒である。これは「ハリボテサンド」とも呼ばれる。

 もう一つは、「シズル出し過ぎ」問題だ。有名なところでは、「練乳いちごミルク タピオカ入り」がある。これは、プラスチックカップに入ったドリンクなのだが、パッと見かけたら「おぉ! 底にイチゴ果肉が溜まり、イチゴが全体的に浮遊している!」と思うが、これはあくまでもパッケージデザイン。実際には果肉感はあまりない商品なのである。味については「おいしい」という評価はあるものの、期待値は下がったと言わざるを得ない。

 あと、今年話題になったのが、「炭火焼室蘭風やきとりおむすび」。パッケージの背後は黒く、あたかも海苔が添付されているかのように見えるが、実際は黒い色の包装フィルムなのである。さらには「塩むすび」の真ん中が空洞になっているという指摘も2021年にされ、コスト削減の努力は分かるものの、せめて実態を示してもらいたいものである。

お前のせいで

【サッポロビール「ラベルスペルミス」騒動】
 トホホな話が続いたので、ここは少し「良い話」を。2021年2月、サッポロビールはファミリーマート限定で「サッポロ 開拓使麦酒仕立て」というビールを発売。しかし、本来「LAGER」と缶に記載すべきところを「LAGAR」と記載してしまい、一旦販売は中止されるとの判断になった。

 その後、ネットで「もったいない」「構わない」といった声が相次いだことから、スペルミスの缶の商品も発売。店頭POPでは「× LAGAR→ 〇 LAGER お客様のあたたかいお声を多数いただいたおかげで発売できました! スペルは間違えたけど、アジは間違いなし!」と記し、ほのぼのとしたエピソードになった。

【ペヤング「ゴキブリ混入」騒動】
 2014年12月、カップ焼きそば「ペヤング」で知られるまるか食品が、ゴキブリの混入した商品を発売。製造工程で入ってしまったものだが、これをとある男性がツイッターで報告。すぐに同社は回収・生産ラインの停止を決定した。カップ焼きそばにゴキブリが入るという衝撃画像とともにネットではこの件が多数取り沙汰された。

 だが、この問題は意外な方向に行く。なんと、ペヤングファンが男性に対して「余計な報告するな」や「捏造だ」などと批判を多数浴びせたのだ。日頃からペヤングは評判が良かっただけに「お前のせいでペヤングを食えなくなったらどうするのだ!」的な感情からこのような書き込みが相次いだのだろう。

チリメンモンスター

 結局同社は生産ラインとパッケージの見直しをし、ゴキブリ等異物が入らないような対策を約半年かけて行った。社長も生産ラインに立ち改良を重ね、製造ができないその間、社員には給料を払い続けたことも同社の好感度を上げた。それもあったことから6月の復活の際は各地のスーパーがペヤング商品を積み上げた写真をツイッターで公開したり、YouTuberが「ペヤング復活祭」などと題して新しいペヤングを食べる動画を公開したのである。

【番外編:「チリメンモンスター」クレーム騒動】
 小学生の自由研究でも人気の「チリメンモンスター」は、チリメンジャコのパッケージに混入した小さなタコやカニやイカなどを意味する。網で大量に取ったシラスイワシなだけに、その中には別のものも入っているのは仕方がないこと。

 だからこそ「ラッキーだった」的な扱いでチリメンモンスターは重宝され、ネットでその姿を公開する人もいた。だが、2017年、築地の「株式会社阿部水産」に対して異物が入っていた、と猛烈な権幕でクレームをしてきた人物がいたのだという。

食べ物の恨みは怖い

 その人物にとって許しがたいことだったのだろうが、同社は「本製品で使用しているいわしの稚魚は、えび、かに、いか、たこ、さばが混ざる漁法で採取しています。」との注意書きもパッケージに記していた。「チリモンハンター」という言葉もあるほど一部では人気のあるチリメンモンスターだが、まさかのクレームという事態になり、同社がそのことを報告したツイートは多数のRTをされ、話題となった。

 こうしてネットを騒がせた食品騒動を振り返ったが、今回のマフィンの件は「無添加」「オーガニック」的な商品の限界を指摘する声も出ていわゆる「フード左翼」と「フード右翼」の対立構造も生み出した。「食べ物の恨みは怖い」とはよくぞ言ったものである。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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