日本銀行の植田和男総裁は6日、物価情勢について「2%の物価安定の目標に向けた見通し実現の確度が少しずつ高まってきている」との見解を示した。名古屋市で開かれた金融経済懇談会で講演と質疑を行った。
植田総裁は「最近では企業の賃金・価格設定行動の一部に従来よりも積極的な動きが見られ始めている」と指摘。また、中長期的な予想物価上昇率も緩やかに上昇しており、「賃金・価格設定行動に影響を及ぼしてきている」ことにも言及した。
ただ、「現時点では物価安定の目標の持続的・ 安定的な実現を十分な確度をもって見通せる状況には、なお至っていない」とも指摘。「企業の賃金・価格設定行動の変化が広まり、賃金と物価の好循環が強まっていくか、丹念に確認していく必要がある」と語った。
日銀は10月31日の金融政策決定会合で、長短金利の操作目標を維持した上で、長期金利の上限の1%超えを容認するイールドカーブコントロール(YCC)政策の柔軟化措置を決めた。新たな経済・物価情勢の展望( 展望リポート)では、消費者物価の前年比上昇率を2023年度から25年度まで全て上方修正した。今回の講演での物価目標の見通し実現に関する発言は、会合後の記者会見の内容をほぼ踏襲した形だ。
総裁は「特に来年の春季労使交渉は重要な点検ポイントであり、その動向を注視していく必要がある」と説明。中小企業を中心に今年の賃上げは収益力が必ずしも十分ではない中で実施したとの声も聞かれているとし、「こうした先で、来年も賃上げの動きが継続するかは不透明」との見方を示した。
企業が賃金などの上昇を念頭に置きながら販売価格を設定するスタンスが強まるかを二つ目のポイントとして挙げた。原材料コストと異なり、賃金などの間接費の上昇については、販売価格への転嫁は容易ではないとの指摘も少なくないとし、「企業の価格設定行動の変化が広がっていくか、今後の動向を確認していく必要がある」としている。
金融政策運営に関しては、想定通りに賃金と物価の好循環が強まっていくのかはなお不透明と指摘した上で、「イールドカーブコントロールの枠組みの下で粘り強く金融緩和を継続することで、経済活動を支え、賃金が上昇しやすい環境を整えていくことが政策運営の基本となる」と述べた。
10月会合でのYCCの運用見直しについては、金利上昇圧力がかかる局面で長期金利の上限を厳格に抑えようとすると、債券市場の機能や他の金融市場のボラティリティーに影響を及ぼす恐れがあるとし、「今回の見直しはこうした副作用が生じることを和らげることに資する」と説明。今後も金利上昇局面では長期金利の水準や変化のスピードなどに応じて機動的にオペで対応するとし、長期金利が「1%を大幅に上回って推移するとはみていない」という。
さらに、長期金利が幾分上昇する可能性はあるが、金融政策が経済・物価に与える効果を捉える上では「予想物価上昇率を勘案した実質金利が重要」と指摘。先行きも実質金利はマイナス圏で推移するとみられるとし、「十分に緩和的な金融環境は維持される」との認識を示した。
他の発言
- 「第一の力」の輸入物価上昇の価格転嫁による物価上昇圧力が一巡後も、ゼロ%台の物価上昇に戻ることは想定していない
- 「第二の力」の賃金と物価の好循環が強まっていき、消費者物価の基調的な上昇率が2%に向けて徐々に高まっていく
- 最近では企業の賃金・価格設定行動の一部に従来よりも積極的な動きが見られ始めている
- 賃金の上昇が続くことが予測され始めている可能性がある
- 中長期的な予想物価上昇率も緩やかに上昇、賃金・価格設定行動に影響を及ぼしてきている
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