制作期間、わずか45日
ランチア時代にローマ教皇専用車や2001年発表の「テージス」などを手がけ、ベルトーネではエグゼクティブ・デザインダイレクターを務めたマイケル・ロビンソン氏。その彼が2023年11月8日、ミラノの二輪車ショー「EICMA」において新作コンセプトカー「アーキタイプ」(Archetype)を発表した。
アーキタイプは、中国深センを本社とし、イタリアにも拠点をもつ試作開発支援企業のホンピー・テクノロジーズ(紅品晶英科技)が、自動車モデル試作の速度と品質を示すために制作したプロトタイプである。完成に至る所要日数は、わずか45日であった。
ロビンソン氏は、その電気自動車(EV)用アーキテクチャー上に構築したラグジュリーセダンの説明を、車名から始めている。Archetypeは通常「元型」と訳され、共通項をもつ人々が同じ経験や体験を繰り返すうちに、伝説、神話などに基づく独特の共通的無意識をもつことと定義されている。ただし語源は、古代ギリシアの動詞archein(始まり、起源)+名詞typos(モデル、形)にさかのぼる。哲学の世界では「本質」と訳される場合もある。
このクルマでロビンソン氏は、過剰な線、長年用いられてきた素材といった過去の高級車のルールから脱却。代わりに本質的な線とプロポーションによって、可能な限り最小限にデザインしたとしている。外観ではほほすべてのラインを排除し、極めて低く幅広いスーパーカーと、高級リムジンの超ロングホイールベースが融合した、既存の内燃機関車ともEVとも異なる形態に到達。黒で統一された外観は、一体化された黒いウィンドウとともに、無垢(むく)から切り出された印象を生み出し、現代のクルマの視覚的ノイズをさらに低減している。
黒一色のエクステリアと対照をなす淡い暖色の室内でも、“ミニマリズム”“本質"が徹底されている。インストゥルメントパネルに備わるのは、空調吹き出し口と、中央に置かれた左右後方を映し出す画面のみだ。ロビンソン氏は説明する。「デジタル時代の今日、人々は携帯電話やクラウドなど、各自がおのおののウェルビーイングを車内に持ち込みます。そこにファクトリー(もしくはデザイナー)が騒々しいビジュアルを追加すればするほど、人々は混乱を引き起こしてしまいます」
ステアリングはバイ・ワイヤ方式で、外的状況および運転者の入力に応じて切り角を毎秒5回自動調整する。現在ほとんどのクルマがロックトゥロック=972~1152°、すなわち2.7から3.3回転となっているのに対して、90°以上回転させる必要がない。その恩恵はステアリングホイールのデザインに及んだ。中央に情報用画面を配置でき、そこに速度、電池残量、GPS地図などを簡単に表示する。画面両側に配置されたボタンは、ステアリングを離さず親指で操作可能だ。
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