Tuesday, May 12, 2020

コロナ患者、本当にこわい「免疫システムの暴走」 - ナショナル ジオグラフィック日本版

インフルエンザにかかった肺の組織の顕微鏡画像。サイトカインストームによって生成された免疫細胞が緑および赤で示されている。 PHOTOGRAPHY COURTESY HUGH ROSEN AND MICHAEL OLDSTONE, SCRIPPS RESEARCH INSTITUTE

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 新型コロナウイルス感染症にかかった多くの重症患者にとって、最大の脅威となるのはコロナウイルスそのものではない。人体がウイルスと闘うために立ち上げる“戦闘部隊”だ。

 免疫システムは病原体から体を守るために不可欠だが、時に健康な細胞を傷つける激しい凶器にもなる。免疫反応が暴走する例の一つが、過剰な炎症を引き起こす「サイトカインストーム」だ。集中治療や人工呼吸器を必要とする場合を含め、新型コロナウイルス感染症の最も重篤な事例において、この現象が起こっているのではないかと考えられている。

 サイトカインストームは「新型コロナウイルス感染症にかかった人が亡くなる原因として最も多いものの1つ」と話すのは、米国ボストン市、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のアナ・ヘレナ・ジョンソン氏だ。

 臨床医や研究者たちは、現在も、サイトカインストームがどれほどの頻度で生じているのか、何がそれを引き起こすのかについて調べているところだ。こうした過剰な免疫反応は、新型コロナウイルス特有のものではないため、既存の治療法の中で有効だと思われるものの目星はついている。こうした治療法を他の治療薬と合わせれば、回復のスピードを早められるうえ、科学者たちがワクチンの開発を急ぐ間に致死率を下げられるかもしれない。

「それが、このパズルの鍵のようなものです」と、米ワシントン大学の免疫学者マリオン・ペッパー氏は言う。

免疫システムの暴走

 人間の体には、侵入した者を発見し退治する方法が用意されている。サイトカインは、こうした防御反応を調整するにあたり極めて重要なタンパク質だ。体の防衛軍を結集するために細胞からサイトカインが放出されると、極小の防犯アラームのような役割を果たし、免疫システム全体に侵入者の存在を知らせる。

 通常は、サイトカインの情報伝達によって免疫細胞および分子が感染箇所に動員される。防衛軍を動員する過程で、複数の種類のサイトカインが度々炎症を引き起こす。当該箇所での脅威が小さくなり始めると、サイトカインによる情報伝達は止まり、防衛軍は撤退することになるのが普通だ。

 しかし、サイトカインストームが起こると、「免疫システムが狂ってしまう」と話すのは、米コロンビア大学のウイルス学者アンジェラ・ラスムセン氏だ。サイトカインのアラームは止まるどころか鳴り続け、不必要に兵士を集め続けて、病原体そのものよりも体にダメージを与えてしまうことがある。たった一人の暗殺者を捕らえるために大軍を送るようなものだ。しまいには体全体が戦場と化してしまう。

 サイトカインストームが起こると、血管が大量の免疫細胞で詰まって交通渋滞のようになり、臓器に酸素や栄養分が届かなくなってしまうことがある。また、感染した細胞に向けられたはずの毒性を持つ免疫関連分子が、血管から漏れ出て健康な組織を損傷してしまうこともある。場合によっては、こうした分子の渦が呼吸困難を引き起こす。サイトカインストームが止まらない限り、患者は組織を損傷し、臓器不全を起こし、そして究極的には死に向かうことになる。

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