Tuesday, May 12, 2020

社説 緊急事態解除へ 思惑先行では防げぬ災禍 - 信濃毎日新聞

 歓迎できるはずの判断にも、強い懸念が付きまとう。

 安倍晋三政権が、13の特定警戒都道府県を除いた、長野を含む34県で、14日にも緊急事態宣言を解除する構えでいる。

 首相が宣言の延長を表明したのは、つい先週だ。経済への影響を抑えたいあまり、前のめりになっていないか。明確な根拠を欠いたまま解除すれば、再び感染が広がりかねない。

 西村康稔経済再生担当相は「新規感染者が2週間ゼロという県も多く、1週間ゼロはそれ以上に多い」とする34県の状況を、解除検討の理由とした。

 その上で、(1)新規感染者の減少傾向(2)十分な医療提供体制(3)感染状況の監視が可能―などを解除の条件に挙げている。

 解除条件の具体的な数値や例はまだ示していない。政府は、5月末には特定警戒都道府県も解除したい考えだ。厳しすぎれば実現できないとの思惑から、基準づくりが難航しているという。

 本来は、まず基準があり、該当する県から解除するのが筋だ。そもそも「14日」とか「5月末」という期限は、どういう理由で設定したのか。判断の過程が不透明なこと自体、見過ごせない。

 感染者の減少は検査件数が伸び悩んでいるためだ、と指摘されている。政府専門家会議の尾身茂副座長も国会で「報告されているよりも、感染者の数が多いことは間違いない」と述べている。

 長野県は、5月中に東北中南信に1カ所ずつ外来検査センターを設置する。少なくとも、この態勢が整うまでは、規制を一斉に緩められないだろう。

 安倍政権は東京五輪や中国の習近平国家主席の来日に固執したため、新型コロナへの対応の遅れを招いたとの批判を浴びる。経済優先で、封じ込めが半端になる過ちを繰り返してはならない。

 政府は、患者急増の兆しがあれば、宣言の対象地域に再指定するとしている。都道府県ごとに状況は異なる。知事の対応に遅れが生じないよう、前もって意思決定の手順を協議しておきたい。

 休業を要請された事業者、外出自粛を迫られた住民にとり、解除は待ち遠しいに違いない。地域経済に活気を取り戻すためにも、着実に安心して行動できる環境へと近づける必要がある。

 当面は「新しい生活様式」といった感染防止への協力を、国民に広く求めていくことになる。実質的な自粛が続く間は、国と地方による十分な補償が欠かせない。

(5月13日)

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