パンデミックにより、十分な食事をとれない米国人が急増している。多くの人にとって、慈善団体や近所の人の助けが頼みの綱だ。
朝5時半。たいていの人はまだ寝ている時間だが、87歳のベシー・ブルックスはもう家を出る。
米国アラバマ州ラウンズ郡で、困っている人たちに食べ物を配るためだ。
ジャーナリストとしては、彼女を「ブルックス」と名字だけで呼ぶべきだろうが、目上の人に対する私なりの礼儀として「ミセス・ブルックス」と呼ばせてもらう。彼女はかつて、ラウンズ郡の訪問介護員として30年間働いていた。仕事内容は、利用者の起床や入浴、歯磨きや薬の服用の介助といった、身の回りの世話だ。しかし、ミセス・ブルックスは業務の範囲にこだわらず、必要なら何でもやった。
「朝起きて、せっかく入浴して体をきれいにしたとしても、おなかがすいていたら仕方ありませんから」と彼女は言う。
だから彼女は料理や掃除もしたし、水道がない家なら、近所の家から水をもらってきた。ラウンズ郡では、すべての家庭に水道設備があるわけではない。
米国最大の飢餓救済団体「フィーディング・アメリカ」によれば、2020年の同郡で食料不安を抱える人の割合(食料不安率)は、全米で16番目に高かった。ここでは3分の1近くの住民が十分な食料を入手できない。
2020年に食料不足に陥った米国人の数は、それまでの減少傾向から転じて、劇的に増えた。米国人の7人に1人が食料不安、つまり栄養価の高い食料を十分に入手できない状態に置かれたと推定される。2021年3月にフィーディング・アメリカが発表した予測によれば、今年はわずかながら改善が見られ、食料不安に陥る人口は米国民の8人に1人に当たる4200万人となる見込みだ。この数字には1300万人の子どもが含まれる。つまり、今年は6人に1人の子どもが十分な食事をとれないかもしれないということだ。全米各地で食料の配布を求めて人々が長い車列を作る光景は、米国が長年抱えてきた問題を浮き彫りにした。これはパンデミックのせいで生まれた問題ではなく、パンデミックによって悪化した問題だと、フィーディング・アメリカのCEOクレア・バビノー゠フォントゥノは話す。
ウェストバージニア州ダンロウ
食料配給所での長い待ち時間
地元の消防団で長年ボランティアをしているウィラード・マーカムは、この日、無料の食料配給所で725番目に食料品を受け取った。彼の車が最後の1台だった。マーカムは2019年に炭鉱の仕事を解雇され、現在は週に最大90時間働いて、妻と7人の孫を養っている。この日は自分の家族と、車をもっていない近所の高齢者のために食料品を取りに来た。
2003年にこの配給所を開設したビル・ライケンスによると、近隣の町でいくつかの配給所が閉鎖されてから地域の需要が高まり、多くの人が遠くから来て、車中泊で列に並ぶ人までいるという。2019年には300世帯だった利用者が、2020年11月には900世帯に増えた。コロナ禍で多くの人が職を失い、感謝祭やクリスマスを前にして食料不安が高まったことから、混雑がピークに達したのだ。(PHOTOGRAPH BY MADDIE MCGARVEY)
「飢餓の問題は以前からあったのだという認識が高まったと思います」と彼女は言う。「長い間、米国人は自分たちの国にそのような問題があるとは思っていませんでした」
ここから先は、「ナショナル ジオグラフィック日本版」の
定期購読者(月ぎめ/年間)のみ、ご利用いただけます。
定期購読者(月ぎめ/年間)であれば、
- 1 最新号に加えて2013年3月号以降のバックナンバーをいつでも読める
- 2ナショジオ日本版サイトの
限定記事を、すべて読める
おすすめ関連書籍
からの記事と詳細 ( コロナ禍の米国 空腹と闘う - ナショナル ジオグラフィック日本版 )
https://ift.tt/3BKx46e
0 Comments:
Post a Comment