
「放送倫理」のお目付け役、BPOの出番がやってきたと思う。
今回のフジテレビ『テラスハウス』をめぐっては、木村花さんがSNS上で寄せられた心ない誹謗中傷によって精神的なダメージを受けて自殺に追い込まれたと見られるため、SNS上での誹謗中傷や名誉毀損などの行為をどのように規制できるのかが議論になっている。
一方で焦点の一つは『テラスハウス』の番組制作側に問題がなかったのかどうかだ。
「リアリティー」をうたいながら、一般的に“やらせ”と呼ばれるような“過剰な演出”はなかったのか。
番組の宣伝などで、ドラマティックに視聴させるために「あおる」ような行為がSNSでなかったのかどうか。
それが問われてくる。
『テラスハウス』の“やらせ”問題では、先日、黒川前検事長の「賭け麻雀」問題をスクープして辞任に追い込んだ「週刊文春」が繰り返し報道してきた。
だが、これまでも同番組はその制作手法や“過剰演出”がたびたび問題視されてきた。
「週刊文春」(2014年6月5日号)では、同番組のディレクターらによる出演者へのセクハラやパワハラ、やらせ強要をスクープ。同年9月で番組はいったん終了した。
刑法上罪に問われかねない“強制わいせつ事件”まで起きていたことが事実であれば、番組側がどこまで現場をコントロールしていたのか、あるいは放置していたのかが問われることになってくる。
「2014年12月、被害者のB子さんは1人で女子部屋で寝ていましたが、そこにA氏が侵入。B子さんのベッドに入り込み、キスを迫ったのです。キスの後で男女の関係を求めてきたA氏に対し、B子さんはA氏の頭を抱え、なだめることでその場を収めました。この日の夜は収録がなかったのですが、たまたま、シェアハウスにA氏とB子さんの男女1人ずつしかいないという状況になってしまったのです」(前出・番組関係者)
『テラスハウス』を見る限り、様々な出来事が「カメラの前で」起きていることが分かる。
出演者も番組制作する側も「カメラを意識」しながら、何らかの意味で「演じている」ことは事実だろう。
週刊文春は、制作スタッフによる「誘導」があったという証言を報じている。
マネジャー抜きでメンバー全員がスタッフに集められていたこともあった。そこで全体的な流れや方向性を説明されていたことを後から演者に聞いて知りました。全体的な流れはスタッフが誘導していました。
他方で、それを真っ向から否定するような報道もネット上では出ている。
ネット上では「やらせ疑惑」が報道されていますが、少なくとも私が出演していた『テラスハウス』にやらせは一切ありませんでした。
こうした中で制作するフジテレビは番組の休止を発表し、遠藤龍之介社長もコメントを発表した。
『テラスハウス』はリアリティーショーであり、主に若者の恋愛を軸に、それにまつわる葛藤や喜びや挫折など様々な感情を扱うものですが、刻々変化する出演者の心の在り方という大変デリケートな問題を番組としてどう扱っていくか、時としてどう救済していくかということについて向き合う私どもの認識が十分ではなかったと考えております。
以上のことを考慮したうえで、今回、既報の通り、同番組の制作、地上波での放送、およびFODでの配信を中止するとともに、今後、十分な検証を行ってまいります。
制作していたフジテレビとして「今後、十分な検証」を行うとしている。
放送倫理上の違反があったのかや出演者への心の問題へのケア不足がなかったのか。今後のフジテレビ社内の「検証」がしっかりしたものであれば明らかになるはずだ。
放送関係者ならばピンと来るが、こういう流れになってくるとフジテレビの「検証」の次の段階が、番組の「放送倫理」の番人であるBPO(放送倫理・番組向上機構)が「検証」することになるのが今後予想される展開だ。
「番組のお目付役」などと評されるBPOは、NHKと日本民間放送連盟が設立した自律的な放送倫理遵守のための組織で、法律を背景にした強制力を持っていない。このため、何か問題を検証するにあたっては当該の放送局の「協力」が絶対的に不可欠だ。
フジテレビ自身が「検証」することになった以上、BPOの中にある3つの委員会のうち、「やらせ」や「不適切な演出」などのケースを担当する「放送倫理検証委員会」がいずれ審議する流れが出来たことは間違いない。
では、BPOはこの問題をどのように扱うのだろうか。
BPOがこれまで指摘したリアリティーショーの「問題点」
BPOはこれまでもリアリティーショーの問題点を指摘して注意喚起してきた。
特に本番組を視聴した子どもに、自分たちが将来大人になって生きていく実社会は、パワハラやセクハラを我慢しなければよい職が得られない場所である、という誤った観念を植え付けてしまう危険性があるのである。
セクハラ・パワハラに対する問題意識が広く社会的通念として確立しつつあるなかで、青少年への影響を考慮し、番組の中にセクハラ・パワハラを容認するような内容が含まれないよう、番組制作者は十分に注意されたい。
あるいはリアリティーショーそのものではなくとも、「リアル」を追求するバラエティー番組については個々のケースの審議に積極的な姿勢を示してきた。
委員からは「意欲的な番組であるが、もともと無理があったのではないか」「同局の番組に対して委員会が2014年4月に出した意見書(検証委員会決定20号)において指摘した背景や問題点との類似が窺われる。なぜ教訓が生かされなかったのか、再発防止策が生かされていたのか解明する必要がある」などの意見が出され、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
委員会は今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。
リアリティーショーは、「台本がない」とか「ありのままのリアリティーを見せる」とうたいながら、すべてカメラの前でいろいろな人間ドラマが進行して撮影されていく。このため、どんなに「筋書きがない」と釈明しても、そこで起きる人間ドラマはある程度、出演者本人や制作者たちによって「カメラを意識された」ものだ。
元々なんらかの「意図」や「作為」があって撮影されて編集されているものだと言える。
そこで「演出」がどのように加えられていたのかについて焦点になってくるのが、実際にそれぞれのハプニングが出演者自身によって本当に自発的に起こされていたものか。それとも制作スタッフからの何らかの指示で起こしていたのかになってくる。
木村花さんのケースでいえば、大事にしていたプロレスのコスチュームを同居人の男性が洗濯して小学生のもののように縮んでしまって彼女が激怒した場面が焦点になる。
あのコスチュームをめぐる事件は、制作者側によって「演出」「指示」された結果として起きていたものだったのか。もしそうなら、放送倫理上も重大な問題になってくるに違いない。そこは「検証」が必要な点だろう。
BPOの“判例”がまだない「リアリティーショー」
木村花さんの自殺をめぐっては「リアリティーショー」特有の問題も存在する。
『テラスハウス』のような「リアリティーショー」は、出演者が「ありのままの自分」をさらけ出すことで「リアルさ」が生まれるジャンルだ。それだけに視聴者は「映し出されていることはすべてリアルな出来事」と思い込んで「番組上の出演者」と「リアルなその人」とを同一視して感情的になりがちだ。
しかし実際にはカメラが回っている場所で「出来事」が進行しているので、出演者も「カメラを意識した行動」を行っている。つまり、まったくの「素」というなどありえない。出演者の多かれ少なかれ「演じている」という側面があるのだ。
だが、視聴者からの出演者に対する「反応」は、「リアルなその人」本人に対する批判や攻撃になりやすい。感情的に「嫌い」「許せない」という反応がそのままその実在の人物に向かっていくのである。
ドラマでも、視聴者が「その役を演じている俳優」と「その役の人物」を混同するケースはこれまで発生したことはあったが、さすがに今の日本でそうした混同をしてしまう人は数少ない。しかりリアリティーショーは「その役の人物」と「その役で登場する出演者」は区別がつきにくく混同しやすい。
視聴者の反応がSNS上で話題になれば、番組側でもたくさんの視聴者を獲得できるため、「ドラマティックに盛り上げるため」、出演者同士の感情的なバトルや恋愛のもつれなどを「あおって」宣伝しがちだ。
視聴者の側は、もし「悪役」の出演者がいる場合には感情を暴走させて、出演者への人格攻撃に発展させてしまう。結果として、木村花さんという出演者本人が深く傷ついてしまったことが今回の出来事の背景にはある。
「リアリティーショー」とか「リアリティー番組」と言われる番組については、アメリカやイギリス、韓国などでも数多くの自殺者を出している。この事実が物語っているのは、このジャンルの番組には「危険性」が伴っているということだ。
過剰な出演者攻撃に発展して、同じような自殺者が出ないようにするための「教訓」は何なのか。再発防止のためのどういう「ルール」などを作っていくべきかをこれから「検証」していく必要がある。
BPOがこれまで積み重ねてきた様々な放送倫理違反などのケースは、裁判にたとえるならば「判例」に相当するもので日本においては少しずつ蓄積されつつある。
だが「リアリティーショー」についてはこれという明確な「判例」はまだ存在しない。
それだけに、フジテレビもBPOも「リアリティーショー」についての模範的な「判例」を示してほしい。
課題はBPOが「配信」コンテンツに踏み込めるのか。
通常はフジテレビの社内調査がまず先に行われて、結論を出す。
報道によると、関係者のヒアリングや処分などを行う方針だという。
同局企業広報室によると「検証に当たる人選はこれから行っていく」という。検証は同局と制作会社のイースト・エンタテインメントが協力し、出演者や関係者への聞き取り、番組制作資料や素材VTRの確認、SNSの調査など、事実関係を精査する。関係者の処分については「検証の結果次第」という。
フジテレビの検証結果が出た後で、次にBPOの「放送倫理検証委員会」が審議するのかどうかという話になっていくのが通常の手順だ。
番組制作の過程で「やらせ」と呼ばれる放送倫理上の問題はなかったのか。出演者へのケアが十分だったのか。それをしっかり検証してほしいと思う。
だが、実は大きな課題がある。
BPOはあくまで「放送」された番組の内容などを検証して、放送法やこれまでの裁判所の判例、日本民間放送連盟などのガイドラインなどに照らして「放送倫理」の違反などがあったのかどうかを検証していく。
木村花さんがSNSで誹謗中傷を受けることなった番組は当初ネットフリックスで「配信」されていた。つまり「放送」ではなく「配信」=インターネットだった。「放送」された番組だけを管轄するBPOの「権限の外」だったことになる。
木村さんは同居男性とのトラブルに憤ったシーンが3月末にネットフリックスで先行配信され、SNS上で誹謗(ひぼう)中傷を受けていた。今月18日にフジテレビでも放送されて再炎上、23日未明に「毎日100件近く率直な意見。傷ついたのは否定できなかったから」などとツイート後に死去した。同局は27日に番組の打ち切りを発表した。
ただ、今回は「今月18日にフジテレビでも放送され」とあるから、BPOは審議することができる。
テレビ局が「放送」からネットでの「配信」へと、コンテンツの出し口を次第に広げている現状では、今後は「放送」ではなく、「配信」だけで番組を提供するケースも増えてくる可能性がある。
そうした時代の流れも見据えて、BPOには「放送」と「配信」についても大局観がある検証をお願いしたい。
放送と配信の融合の時代にBPOの存在意義を示すべき。
2020年、NHKは放送法を改正を受けて本格的に配信に乗り出し、NHKで放送する番組は「NHKプラス」というネット上のアプリでも視聴することが可能になった。つまり「同時配信」元年と言われた年だった。それに民放の続くのかどうかが年始めには議論されていた。
新型コロナウィルスの感染拡大で今ではそのことがほとんど意識されなくなってしまったが、テレビ局は大きな転機を迎えているタイミングで浮かび上がったのが『テラスハウス』の問題だった。
番組の宣伝もSNSを駆使して視聴者の感情に訴えるように「あおる」形で行いがちだ、
リアリティーショーについてどこまで許されるのか。明確な形で検証した事例は日本ではこれまでない。BPOはこの問題を検証してほしい。
BPOの「放送倫理検証委員会」の委員には、弁護士、大学教授などの専門家たちがいる。
そうした人たちが「放送」だけでなく「配信」の時代にもなりつつある現在、コンテンツの作り方や宣伝の仕方での「倫理」のあり方についてなんらかの「ルール」を示していくことが大切だ。
そうしないと、今、放送から配信へとコンテンツの流れがシフトしている時に、BPOそのものの存在意義が問われてしまうことになりかねない。
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May 30, 2020 at 07:23AM
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『テラスハウス』“やらせ”の有無や出演者ケアが十分だったのかBPOは審議すべき(水島宏明) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース
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