Monday, May 2, 2022

YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」人気 「一発撮り」ライブの感動 緊張までも伝わる - 東京新聞

「東京」を歌うSUPER BEAVERの渋谷龍太(左)と緑黄色社会の長屋晴子

「東京」を歌うSUPER BEAVERの渋谷龍太(左)と緑黄色社会の長屋晴子

 さまざまなアーティストが、動画投稿サイト「YouTube」上で「一発撮り」のパフォーマンスを披露する「THE FIRST TAKE(ザ ファースト テイク)」のチャンネル登録者数が600万人を超え、アーティスト単独以外の音楽チャンネルとしては国内トップに躍り出た。開設からわずか2年余での快挙。過剰な演出が多い時代に、なぜシンプルな一発撮りがウケたのか。運営スタッフと、クリエイティブディレクターの清水恵介に聞いた。 (敬称略、築山栄太郎)

 白いスタジオに置かれた一本のマイク。人気ユニットYOASOBIのボーカルikuraが画面に入ってくる。ヘッドホンを装着すると、緊張した様子で言葉を選びながら曲を紹介。生のボーカルで「優しい彗星(すいせい)」を歌い上げたikuraの手元の震えを、カメラは逃さない。

 「ヘッドホンを押さえる指先が震えていて、どれだけの緊張の中で歌ったんだろう」。視聴者から次々に寄せられるコメントには、歌声や表情への素直な感動がつづられる。

 チャンネルの開設は二〇一九年十一月。毎週のように話題のアーティストが登場し、派生企画を除いても二百本以上、一発撮り動画がアップロードされてきた。

 清水は「YouTubeの視聴者は、リアリティー至上主義。何が信じられるのか、常に見極めている」と分析。「一発撮りはアーティストの負担は大きいが、一度限りのライブのような感動体験を、映像として視聴者に届けられると思った」と、狙いを語る。

 白い空間は、音楽だけで満たされるシンプルさを追求した。清水がこだわるのは「解像度」。画質や音質だけでなく、音楽や人間味をより豊かに伝えようという思いだ。ikuraの手の震えのように、寄ったカメラがとらえた動きについて「緊張するのは恥ずかしいことではなく、かっこいい。素の表情だけでなく、コンプレックスさえも魅力につながる」と語る。

「群青」「優しい彗星」などで出演しているYOASOBIの動画サムネイル

「群青」「優しい彗星」などで出演しているYOASOBIの動画サムネイル

 最初のテイクは、「adieu(アデュー)」名義で歌手活動をする俳優の上白石萌歌の「ナラタージュ」。運営スタッフは「空間にいるだけで存在感がある上、まだ何色にも染まっていないタイミングで、初回にふさわしかった」と振り返る。

 その後のキャスティングは、海外戦略も考慮。アニメソングとして人気の高い曲を組み入れた。テレビアニメ「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」竈門炭治郎(かまどたんじろう) 立志編で大ヒットしたLiSAの「紅蓮華(ぐれんげ)」がその一つ。アニメ「東京喰種トーキョーグール」のオープニングテーマ「unravel」を歌う「TK from 凛(りん)として時雨」も登場し、チャンネル登録者数を大幅に伸ばした。

 まだ世に周知されていないカップリング曲が日の目を見るきっかけにもなった。DISH//の「猫」は、俳優としても活躍するボーカル北村匠海が、メンバーが演奏したアコースティックアレンジ音源に乗せて歌った動画が話題を呼び、一億七千万回を超える再生回数を記録。チャンネル内でトップだ。

 開設から数カ月で迎えたコロナ禍では、撮影を止める話も出た。しかし、アーティストが自宅やプライベートスタジオから一発撮り動画を届ける「THE HOME TAKE」に切り替え、巣ごもり生活でスマートフォンを見る時間が増えた人々にコンテンツを提供し続けたことで、チャンネルの存在感を示した。

 アーティストたちの満足度も高い。「東京」を歌ったSUPER BEAVERのボーカル渋谷龍太は「もっとやりたい、ってすごく幸せな気持ち」とコメント。共演した緑黄色社会のボーカル長屋晴子も「歌にしか向き合えず、邪念がなくなり集中できる。緊張するけど好きな空間」と語っている。

 チャンネル登録者の約三割が、台湾やインドネシア、米国、フィリピンなどの海外在住者。運営スタッフは今後の展望として「Jポップの海外輸出」を描く。「韓国のKポップはできているのに、という思いは強い。海外のアーティストにも出演してもらい、世界各国のファンたちが『THE FIRST TAKE』でJポップの動画を視聴すれば、芽ができる」と期待する。

◆生の質感 求める時代

 「平成Jポップと令和歌謡」(彩流社)などの著書がある音楽評論家のスージー鈴木は「コンピューターで声の音程も簡単に変えられる時代。それに対して生の質感を求める音楽ファンも多く、時代のニーズに合っている」と評価する。

 2010年代の音楽市場の傾向として「スマホからイヤホンを通してサブスク(サブスクリプション=定額制)で人工的な音楽を聴くことが増えた一方、空気を大きく震わせて生の音楽を聴くライブやフェスも盛り上がってきた」と指摘。「コロナ禍でイベントが中止になり、ライブ感を求めるファンの需要を満たしたことも大きい」と話した。

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