Microsoftは10月2日(米国時間)、ニューヨーク市内で開催された発表イベントにてSurface新製品群を発表した。Surface Laptop 3やSurface Pro 7といったPC製品のに加え、新顔となるSurface Pro X、Surface Earbudsといったラインアップが新たに追加されている。Surface Pro Xと、そこに内蔵されたQualcommと共同開発のSoC「SQ1」の解説は後ほどフォローするとして、今回は本連載中でも何度も取り上げてきた「2画面Surface」と、それを実現する新OS「Windows 10X」に注目し、ここで感じる素朴な3つの疑問を読み解きたい。
Windows 10Xが登場した背景
疑問の1つ目は、「なぜWindows 10ではないOSが必要なのか」という点だ。この疑問に対する回答はシンプルで、「ハードウェアのフォームファクターに適したOSが必要」という理由による。
現在、Microsoftのエンドユーザー向けデバイスのOSとしては、PC向けの「Windows 10」とXbox One向けの「Xbox One OS」の2種類がある。「Windows 10 Mobile」なき今、基本的にはPC向けのWindowsを全ての製品フォームファクター(ゲーム機を除く)に適用している状態だ。ただ、どんなにOS本体をスリム化して高速化しても、「Windowsは(ファットな)リッチOS」であるという事実は覆しがたく、「One size fits all」のようなことにはならない。
これは本体リソースの限られた小型デバイスや薄型デバイス、あるいは“従来なかったような”デザインのデバイスを開発するにあたっては特に不利に働くため、「フォームファクターに適したOS」の存在が重要になる。用途に応じて構成を変更できる産業向けの「Windows 10 IoT」という特殊なOSも存在するが、「Windows 10X」というOSはどちらかといえばそのポジションに近い。
Windows 10Xを読み解くキーワードは、以前のレポートにもあった「Windows Lite」「Centaurus」「Santorini」といった開発コード群だ。
かつては「Andromeda」というキーワードもあったが、基本的には「Windows Core OS(WCOS)」と呼ばれる軽量高速なWindowsの“コア”となるエンジン部分に、「Composable Shell(CShell)」と呼ばれるインタフェースやプレゼンテーションにあたる層が付与される形で1つのWindowsとして機能する。
つまり、WCOSは全てのフォームファクターに共通で、“上もの”を入れ替えることによってファームファクターに適した形で動作させようというのがそのアイデアだ。Windows Liteについては「Chrome OS対抗」という話もあったが、機能を絞って最小限のハードウェアで動作するようにカスタマイズすればそのように機能するし、あるいは今回の2画面デバイスに適した仕組みを付与すれば、そのように動作する。Windows 10 Mobileがあくまで“携帯電話”としての機能を主眼にソフトウェアが構成されているのに対し、Windows 10Xは「それ以外のすべて」をカバーするような仕組みになっているのだと考える。
もっとも、現段階でWindows 10Xに関して公開されている文章はこれだけで、WCOSを含む関連情報はリーク情報や推測による部分が多く、今後の追加情報が必要となる。
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なぜ製品投入が2020年のホリデーシーズンなのか3つの理由
今回発表された2画面デバイスは「Surface Neo」と「Surface Duo」の2つで、このうち「Surface Neo」がWindows 10Xを搭載するモデルとなる。
両製品ともに2020年のホリデーシーズン投入が予告されているが、「なぜ発表から1年後なのか」と疑問に思うかもしれない。理由は3つあり、1つは「OEMらPCメーカーの“Windows 10X”搭載デバイスの登場を待つ必要がある」こと、2つ目は「2画面デバイスの特徴を存分に生かしたソフトウェアやハードウェアの準備が必要なこと」、そして最後の3つ目が「Windows 10Xの“完成”を待つ必要がある」ことにある。
2画面デバイスはSurface Neo(さらにいえばSurface Duo)だけで終わる製品ではなく、OEMを巻き込んだエコシステムにすることをMicrosoftは考えている。同社は既に、Surface NeoのフォロワーとしてASUS、Dell、HP、Lenovoがデバイスを投入することを予告しているが、準備期間として次の商戦期をデッドラインに1年程度の準備期間を見ているわけだ。
イベントで登壇したハードウェア開発担当のパノス・パネイ氏によれば、2画面デバイスのコンセプトそのものは過去2〜3年の準備期間を経て発表に至ったようだが、今日までの間にこれらOEMの関係者らと協議を進め、どのような形で製品を出していくのか構想を練っていたのだろう。Surface Neoはコンセプトを体現する“リファレンスモデル”のような存在であり、このアイデアを基に各社独自にアレンジした製品を市場投入すべく、今後1年かけてブラッシュアップを続けていくことになるはずだ。
もう1つ重要なのがアプリケーションの話で。今すぐSurface Neoのような製品が欲しいというユーザーは、「今あるアプリケーションでいいから、そのまま使わせてよ」と思うかもしれない。ただ、おそらくそれだけではほとんどのユーザーは長続きせず利用に飽きてしまい、「わざわざ普通のPCより高めの製品買ったのに意味なかったよね」となってしまうかもしれない。
それよりは、コンセプトを体現するリファレンス的な製品をまず広く紹介して期待度を高め、それを構成するソフトウェアやハードウェアの情報を少しずつ出していくことで、開発者各々のアイデアを実現するアプリケーションの準備を進めさせ、1年の猶予をもって広げていった方が、より市場に受け入れられやすくなる。
そして最も重要なのが「Windows 10Xのリリースが2020年秋」という点だ。ZDNetのメアリー・ジョー・フォリー氏も指摘しているが、Windows 10XのベースとなっているのがWindows 10の「20H2」というバージョンで、現在Windows Insider ProgramのFast Ringでテストが行われている「20H1」の“さらに次”にあたる。
同氏によれば、このバージョンは「Manganese」とも呼ばれており、「20H1」の一般リリースが行われた2020年5月ごろからWindows Insider Programを通じてテストが行われることになる。正式なバージョン名は「Windows 10(2009)」となることが見込まれており、いわゆるRTMとして一般提供が開始されるのは2020年10月、同バージョンのOSを搭載した製品がOEMから出荷されるのは11月になるとみられる。まさに、ホリデーシーズン直前(毎年11月後半にスタートする)にSurface Neoと、OEM各社から同系統の製品の投入と相成る。
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Androidと携帯市場再参入の理由
Surface NeoとWindows 10Xの話題だけでもお腹いっぱいなのだが、今回多くの人が驚いたサプライズ発表が「Surface Duo」だろう。Microsoftから投入される“Androidスマートフォン”であると同時に、Windows 10 Mobileで同事業から手を引いたMicrosoftの「市場再参入」製品だからだ。以前、「2020年に製品投入される予定のMicrosoftの2画面デバイスではAndroidアプリが動作する」といううわさがあったが、これは奇しくも「Windows上でAndroidアプリを動作させる」のではなく「MicrosoftがAndroidスマートフォンを出す」という形で実現してしまった。
「なぜAndroidなのか」という点だが、複数の理由がからみ合っている。まず「Windows 10がスマートフォンを動作させるようなソフトウェアスタックになっていない」ことが原因で、現状の選択肢として「Androidしかなかった」というのが分かりやすい理由だ。
後付け的な理由では、「現状のWindows 10XはIntelプラットフォーム専用」という理由があり、Surface Neoが採用するSoC「Lakefield」が適したフォームファクターの制限から、より小型で“スマートフォン的”な製品を目指すにはSnapdragonを採用せざるを得ず、結果としてAndroidに選択肢が絞られたともいえる。
過去の一連の取材から、現在のSurface開発チームは「こういうコンセプトの製品を使いたいから、それを実現するためのハードウェアを開発する」という手順で製品が出てきていることが分かっている。
すなわち「2画面利用の可能なスマートフォンがほしい」というのがSurface開発チームの要望であり、それを実現する選択肢としてAndroidを選ぶしかなかったというのが実情だと筆者は想像する。2画面コンセプトを真に生かすにはOSとハードウェアレベルで手を加える必要があり、SamsungのGalaxy Foldのようなデバイスでは開発チームのコンセプト実現には不十分だ。OEM自らがカスタマイズ可能なAndroidはうってつけのOSであり、「コンセプト実現のための実験場」という位置付けのデバイス「Surface Duo」が誕生したというのが筆者の予想だ。
MicrosoftといえばOSの会社、しかもWindowsでPC世界を牛耳っているというのが世間の認識かもしれない。だが現状のMicrosoftはOSそのものにはそれほどこだわっておらず、むしろその上でいかにシームレスに自社のサービスがスムーズに利用できるかの方を重視している。後日本連載でもフォローしていくが、近年の同社のLinuxへの入れ込みはかなりのもので、むしろWindowsのライセンス収入を削ろうが構わないとさえ思えるほどだ。
一方で、デバイス間でのサービスやファイルの受け渡しをスムーズに実現するための仕組みをあらゆるプラットフォームに仕込もうとしたり、その入り口となるEdgeブラウザの利用拡大のためにChromium Edgeの開発を2020年リリースに向けて進めたりと、OSとアプリケーションの中間にあたるレイヤーの拡充を重視している。Chromium Edgeについては2画面デバイス対応の仕組み実装が進んでいるという話もあり、Surface DuoとSurface Neoの登場に向けた下準備は既に整いつつあったというのが現状だ。
なお補足になるが、前出の「WCOS」というのは、あくまでWindows 10のコアコンポーネントのみを切り出したソフトウェアスタックであり、基本的にはWindows 10そのものであることに注意したい。もし20H1や20H2でWCOSのコンセプトがWindows 10に本格導入された場合、WCOSに通常のデスクトップ画面など「クラシックシェル」の機能を付与したのが「Windows 10」、2画面デバイス用の処理機構を付与したのが「Windows 10X」という風に考えていいのかもしれない。
また、Windows 10Xはシングルディスプレイのデバイスでも動作するため、使い方次第ではChrome OSの代替にもなる。理屈上、Windows 10XでもWin32アプリケーションは動作するため(おそらくUWPであることが条件)、役割的にオーバーラップするのは「Windows 10 S mode」だが、このあたりは今後より技術情報が出てMicrosoftの戦略が明らかになることで、統合整理されていくだろう。
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2019-10-03 10:15:00Z
https://www.itmedia.co.jp/pcuser/articles/1910/03/news134.html
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