オーラ・ゲリン、BBCニュース(アンカラ)
トルコ大統領選挙の決選投票で勝利した後、レジェップ・タイイップ・エルドアン氏は支持者の前で調子はずれな歌を披露した。しかし、選挙戦に関していえば、一分のすきもない戦いぶりだった。
野党候補に大統領が敗れるかもしれないと予想した世論調査員やアナリストよりも、エルドアン氏は有権者の考えを見抜くのがうまかった。今回は。
決選投票で敗れた、野党統一候補のケマル・クルチダルオール氏の得票率は、エルドアン氏とわずかポイント差だった。大統領として3期目を迎えるにあたり、エルドアン氏はこのことを反芻(はんすう)するに違いない。
トルコは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国で、戦略的に立ち回ってきた国だ。そのトルコが、これからの道筋を選んだ。有権者のほとんどは、クルチダルオール氏という未知数の民主派ではなく、経験豊富な独裁者に投票したのだ。
クルチダルオール氏は当初、トルコに新たな春をもたらすと約束し、ミスター・ナイスガイとして選挙戦を展開していた。しかしその後、右傾化し、すべての難民を出身国に送り返すと誓った。これはナショナリストからの支持獲得につながったものの、十分な数には達しなかった
イスラム主義者のエルドアン氏には、20年来の信奉者たちとの絆がある。その多くはエルドアン氏と同じ宗教保守派だ。いい時も、ハイパーインフレなどの悪い時も同氏から離れることはなかった支持者が、エルドアン氏にもう5年間、大統領としての時間を与えた。
「ナイスガイ」より「タフガイ」好む国民
決選投票の結果が発表されると、首都アンカラの通りにはトルコ国旗があふれ、万華鏡のような光景が広がった。エルドアン氏の支持者は車のクラクションを鳴らし、歓声を上げた。1000以上の部屋がある特注の大統領府には、大勢の人が押し寄せた。対立候補のクルチダルオール氏が、一般市民が利用できるようにすると約束していたのが、この大統領府だった。
「大統領が再び私たちを導いてくれる。ありがたいことです」。ハティセ・デュランさん(50)はスカーフの下で満面の笑みを浮かべながらこう言った。「これ以上の感情はほかにはありません。世界中に聞かせてあげましょう。彼こそは、全世界に反抗し、全世界に教訓を与えた指導者です」。
「エルドアン氏は、力強い指導者だ。屈することのない現代のスルタン(イスラム教国の統治者)だ」というイメージが、同氏が国民を惹きつける重要な部分となっている。
多くのトルコ国民はいいやつ(ナイスガイ)よりもタフな男を好むというメッセージが、今回の選挙から読み取れる。
そしていま、エルドアン氏は再び勢いづいている。野党側がひどい痛手を負った一方で、クレムリン(ロシア大統領府)は祝杯をあげている。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が真っ先に、エルドアン氏の当選を祝福したことに、何ら驚きはない。それはまさに、プーチン氏が望んでいた通りの結果になったからだ。プーチン氏は、ロシア産天然ガスの代金6億ドル(約842億3500万円)の支払い期限をトルコ相手に先延ばしにするなど、エルドアン氏が有利になるよう、自分にできる限りのことをしていた。
エルドアン氏は世情に明るく、庶民的で、しかも地元メディアの9割を掌握しているといった、多くの強みを持って選挙戦に臨んだ。
今後への影響
勝利演説では「勝者はトルコだけだ」と強調したが、すぐさま、野党やLGBTQ(性的マイノリティー)コミュニティを攻撃した。
今後、野党やLGBTQコミュニティはさらに標的にされ、人権や言論の自由への侵害も、これからの数年間で悪化する可能性がある。この国には「チェック・アンド・バランス(抑制と均衡)」はほとんど存在しない。そして、トルコ史上最も長く大統領を務めるエルドアン氏は、手加減などしない。
変化を望んでいた人たち(有権者の約48%)は失望し、あるいはおびえているかもしれない。
トルコは10月に近代化から100周年の節目を迎える。この世俗的な共和国における一般市民の生活から、より多くの自由が失われ、より宗教性が増すことになるというのが、大方の予想だ。
トルコではいま、経済が崩壊し、国内で分断が生じている。エルドアン氏にはどちらの問題を解決する策もないとの批判の声が上がっている。
今回の大統領選の結果を受け、トルコの近隣諸国やNATOの同盟国はどうするのだろうか。エルドアン氏は、確立された国際秩序をひっくり返すことが楽しいような様子を、しばしば見せる。そのことを承知しているだけに、周囲の国は今後の展開を注視していくことになる。
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