日本国憲法は施行から76年を迎えた。国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の三大原理を掲げ、戦後日本の柱となってきた憲法は、今、十分な議論もないまま空洞化の危機に直面している。
ロシアによるウクライナ侵攻や中国の軍拡など、安全保障環境の緊張を理由に防衛力の強化が進み、国会の憲法審査会では緊急事態時に国会議員の任期延長や政府に権限を集中させる条項新設の議論が進む。
しかし、防衛力強化で本当に安全は守られるのか。政府への権限集中が個人の自由や権利を侵す恐れはないのか。戦後、「平和国家」を掲げてきた日本の歩むべき道はどうあるべきか。憲法の理念を空洞化させない議論を尽くすべきだ。
岸田文雄首相は自民党の憲法改正推進本部を改憲実現本部に改組。4月末の会議では、任期中の改憲実現について「思いはいささかも変化していない」と強調した。
改憲に前のめりだった安倍晋三元首相と違い、護憲色の強い派閥「宏池会」を引き継ぐ岸田首相は改憲への意欲は強くないとみられていた。だが、目立たない形で改憲を進めているのは、むしろ岸田氏の方だろう。
昨年12月に改定した国家安全保障戦略など3文書は、防衛費を今後5年間で約43兆円に増やして国内総生産(GDP)比2%とし、相手国の領域内を攻撃できる反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有も決めた。日本の防衛費は米中に次ぎ世界で3番目クラスに膨れあがる。これは9条2項の「戦力の不保持」に反しないのか。しかし、9条と国家安保戦略の整合性が国会で十分に議論されたとは言い難い。反撃能力が9条に反しないかの議論も不十分なままだ。
衆院の憲法審査会は自民に加え、改憲に前向きな日本維新の会や国民民主党の主張で、ほぼ毎週開かれるようになった。議論の焦点は大規模震災など緊急事態への対応だ。自民、公明、維新、国民民主の各党は大規模自然災害やテロ、感染症、国家有事などの緊急事態で衆参両院議員の選挙が実施できない場合に備え、憲法に明記されている衆参議員の任期を延長できる規定を盛り込むよう主張。維新、国民民主両党は条文案を発表した。
さらに緊急事態で国会が機能しない場合、政府が法律と同等の効果を持つ「緊急政令」を発令する権限について自民、維新、国民民主の各党が必要だとし、公明や立憲民主党は不要だとしている。
しかし、選挙が実施できないような緊急事態が起きるのは極めてまれなケースではないか。その緊急事態の認定は内閣の判断に任され、さらに緊急政令権を認めれば、選挙で有権者の審判を受けない政権に権力が集中することになりかねない。
新型コロナウイルスやウクライナ侵攻は国民の不安を募らせる。だが、必要なのは、不安に乗じるのではなく、国民の権利を守る冷静な議論だ。
共同通信社が実施した郵送世論調査によると、改憲の機運は国民の間に「高まっていない」が「どちらかといえば」を含め計71%に上った。国会で議論を求めるテーマは「9条と自衛隊」に次いで「社会保障などの生存権」「教育」が続いた。このほかにもジェンダーやデジタル社会の人権など新たな課題もある。国民が求めるさまざまな課題に真摯(しんし)に向き合うのが国会の責務だ。(共同通信・川上高志)
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