メタバースの拡大
メタやマイクロソフトなどテック大手企業を筆頭に、さまざまな企業が「メタバース」に関する取り組みを加速している。また、JPモルガンも2022年1月に発表したレポート「Opportunities in the Metaverse」で、現時点におけるメタバースの成長可能性とリスクに関する情報をまとめ、大きな投資機会であると主張するなど、大手金融機関もメタバースに対する関心を高めている状況だ。
JPモルガンは、現時点のバーチャルグッズに対する支出額が年間540億ドル(約6兆5792億円)に達したほか、人気ゲームRobloxの1日あたりのメッセージ数が600億回、NFTの時価総額が410億ドル(約5兆円)に達するなど、メタバース関連の各要素で目覚ましい成長が見られると指摘。2027年にはゲーム内広告支出が184億1000万ドル(約22兆円)に達するとの推計を挙げ、メタバースにおける広告ビジネス機会も拡大すると予想している。
一方、同レポートは、メタバースに関する多くの報道がハイプであるとし、メタバース関連テクノロジーの開発動向やリスクなどに関して、現実的な視点を持つ重要性も説いている。
JPモルガンが指摘するように、多くのメディア報道はメタバースの可能性/期待に過度に傾倒しており、ハイプであるというのは事実といえるだろう。
メディアがハイプ状態である一方、現実的な視点に立ち、メタバースのリスクや安全性を議論する人々も存在している。
「次のインターネット」ともいわれるメタバース。インターネット上のリスクを包含するほか、VR・ARテクノロジーに関するリスクも加わることになり、これまで以上に包括的なリスク・安全対策が必要になることが、こうした議論から見えてきている。
以下では、メタバースに潜むリスクをあぶり出してみたい。
メタバースのリスク、心理的な悪影響
まず、VRによって深い没入感を体感できるようになるメタバースは、人間の心理に大きな影響を及ぼすリスクが指摘されている。VRやARのセキュリティー問題に取り組むXR Safety Initiative(XRSI)のCEO、カヴィア・パールマン氏は、SearchSecurityの取材で、メタバースに関するリスクの1つとして「ファントム・タイムライン症候群」と呼ばれる心理的な影響を挙げている。
これはバーチャル世界と現実世界の区別がつかなくなる感覚のことを指す。バーチャル世界でしばらく時間を過ごし、現実世界に戻ってもまだバーチャル世界にいる感覚が残ってしまう状態で、特に若年層への影響が懸念される。
脳や思考能力が発達段階にある若年層は、メタバースにおける偽情報やプロパガンダに対しても脆弱(ぜいじゃく)であり、思想をコントロールされてしまうリスクも懸念される。
英グラスゴー大学の研究者らによる調査(2021年2月)では、14歳前後から陰謀論を信じる傾向が強くなることが示唆されている。
この調査では、被験者に9つの異なる陰謀論説が提示され、1~7のスケールで各説をどれほど信じているかが問われた。9つの説には「秘密組織が政治的な意思決定に影響力を及ぼしている」や「秘密組織が政治家をコントロールしている」などの陰謀論説が含まれている。
調査で11~14歳と14~16歳のグループを比較したところ、陰謀論を信じるスコアは、平均3.72から4.67に上昇。また16~17歳では4.39、18歳で4.06となり、陰謀論を信じる傾向は14歳前後がピークになる可能性が示唆された。
研究者らは、若年層特有の心理的ストレスや感情コントロールの難しさが不安を増幅し、これによって若年層が陰謀論を信じやすい心理状態に陥る可能性があると指摘している。
インターネットやソーシャルメディア上でも依然偽情報や陰謀論が出回っている状況を鑑みると、メタバースでの規制も難しいように思われる。
Statistaのまとめによると、メタバースに関して懸念される懸念トップ3は、1位バーチャル世界中毒(47%)、2位プライバシー問題(41%)、メンタルヘルス問題(41%)がランクイン。中毒やメンタルヘルスなど、心理的な影響に対して懸念する声が多いことが見て取れる。
からの記事と詳細 ( 若年層に悪影響?メタバースの「裏」に潜む心理的・身体的リスク - ビジネス+IT )
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