2021年の暮れに亡くなった生物学者のエドワード・O・ウィルソン氏は、かつて昆虫のことを「世界を回している小さな者たち」と呼んだ。だが、この5年間、昆虫の激減を示す報告が集まっており、今後をめぐる議論が盛んに交わされている。激減の主な原因とされているのは、生息地の破壊、殺虫剤の過剰な使用、そして気候変動だ。(参考記事:「農業の毒性が48倍に、『沈黙の春』再び? 研究」)
だが3月30日付けで学術誌「Biology Letters」に掲載された論文が、少なくとも北米の広範囲における、もうひとりの意外な容疑者を指摘した。それはミミズだ。
この研究では、カナダのアルバータ州にあるポプラの森で60の区画を調査したところ、土壌と落葉に生息するミミズの数が多い区画ほど、地上の無脊椎動物の多様性と数が減少していることが確認された。
ミミズは菜園や花壇の益虫として広く知られているので、この研究結果に驚く人もいるだろう。ミミズは、地中に穴を掘り、土壌を耕して通気性を高め、栄養素を糞として排出する。その作用で、一部の植物は元気に育つことができる。
だが残念ながら、少なくとも北米北部の森林では、ミミズは私たちが考えていたような、ぬるぬるした地中の天使ではないかもしれない。今回の論文を含め、こうした問題を指摘する研究が増えている。
「昆虫の減少が話題になっても、土壌が注目されることはほとんどありません」と話すのは、論文の著者の一人でドイツ、ライプチヒ大学の土壌生態学者ニコ・アイゼンハウアー氏だ。「減少している昆虫や無脊椎動物の多くは、地中で過ごす時期があります。今、飛び回る昆虫が減っているのは、最初に昆虫たちが土壌から姿を消したからなのです。ミミズは土壌の質を根本的に変えることがあります」(参考記事:「昆虫たちはどこに消えた?」)
地下にひそむ侵略者
ミミズが在来種である生態系では、ミミズの土壌作用が問題にはなることはない。だが北米大陸の北部では1万年以上前に、最終氷期の氷河によって、土壌に生息するミミズがほぼ全滅した。したがって、北米北部の生態系は数千年もの間、ミミズがいないままで進化してきたのだ。
氷床は、カナダのほぼ全土、米国の北東部の大半と中西部北部の広い範囲を覆った。氷床が後退すると、森林はよみがえったが、ミミズは最大でも1年に約9メートルしか生息域を拡大できないので、回復しなかった。
落ち葉を食べ、土壌を掘り返すミミズがいないので、北米北部の森林では、落ち葉が厚く積もる落葉層が形成され、多くの動植物や菌類の命を支えるようになった。アイゼンハウアー氏は、専門家でなくてもその違いは感じられると言う。
「ミミズに侵略されていない森を歩くと、地面がふかふかしているのがわかります。それは、数千年かけて形成された、分厚い有機物のカーペットの上を歩いているからです」
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からの記事と詳細 ( ミミズは侵略的外来種、北米で昆虫に大きな被害の恐れ、研究 - ナショナル ジオグラフィック日本版 )
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