Friday, July 17, 2020

コロナ禍の「骨太方針」、財政再建棚上げ 膨らむ借金、将来のツケに - 東京新聞

 安倍政権が17日、2021年度予算編成の指針となる「骨太の方針」と、中長期的な経済成長を目指す「成長戦略」を閣議決定した。新型コロナウイルス対策で政府の借金に当たる国債を大量に発行する一方、今回は骨太の方針から例年盛り込んでいる財政再建目標を削除し、成長戦略でも大々的に掲げていた20年ごろの名目国内総生産(GDP)600兆円達成目標に触れなかった。実現が難しくなると、十分な説明もせず「なかったこと」にするような対応が目立つ。(吉田通夫、渥美龍太)

◆消えた「25年度黒字化目標」

 「今は財政のことを考えている場合ではない」

 西村康稔経済再生担当相は17日の記者会見でこう述べ、骨太の方針に具体的な財政健全化目標を掲げなかったことを正当化した。

 従来の骨太では、名目国内総生産(GDP)に対する国と地方の借金残高の比率を安定的に引き下げるとともに、借金に頼らずにまかなう政策経費の収支「プライマリーバランス(PB)」を25年度に黒字化する目標を掲げていた。西村氏は今回も「中長期的に持続可能な財政を実現すると書いてある」と強弁するが、事実上、棚上げにしているのは明らかだ。

◆コロナ長期化でさらに悪化も

 ただでさえ深刻な財政状況は新型コロナの流行で一層悪化している。みずほ証券の末広徹氏によると、GDPに対する債務残高は20年度、政府見通しの189%から225%に急伸し、PB赤字も約15兆円から約64兆円に拡大するとみられる。しかも、この試算は今後予想される税収減を反映しておらず、収束に時間がかかれば再び補正予算を組む必要に迫られ、借金が膨らむ可能性もある。

 法政大の小黒一正教授(財政学)は政府の対応について「財政再建の目標は明確に書くべきだった。なし崩し的に規律が失われて予算の無駄遣いにつながり、将来世代にツケが回りかねない」と強調した。

◆成長戦略も目標触れず

  新型コロナの陰に隠れ、記述がなくなったのは、これまでの成長戦略の目玉だった20年ごろの名目GDP600兆円目標も同じだ。

 「戦後最大の名目GDP600兆円の実現を目指す」という一節が登場したのは、第2次安倍政権が16年につくった成長戦略。19年でも554兆円にとどまり、達成は難しい情勢だったが、新型コロナを受けて策定された今回は「名目GDP」という言葉すら出てこない。

 多くの内閣が掲げてきた名目GDP成長率を平均3%程度に高める目標についても、10~19年の平均は1・25%にとどまる。安倍政権は十分な説明もないまま、目指す対象を600兆円という「金額」に切り替えたが、成長率に関する目標設定の妥当性や実現に向けた課題などを検討した形跡はない。

 第1生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「成長戦略は政権の理想像を示す側面があるため高い目標になるのは仕方ないが、実現に向けた検証や努力が十分とは言い難く、形骸化して実効性が疑われる傾向がある」と指摘。「特にコロナ後の社会変容を目指すなら、国民に信用してついてきてもらう必要があり、政策を検証し反省を生かすプロセスが必要だ」と語った。

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