実質の長期債利回りがマイナス圏に沈んでいる事実は、ファンダメンタルズではなく、FRBの政策の影響の方が大きいことを物語っている(写真はワシントンのFRB本部、20年11月撮影)
Photo: J. Scott Applewhite/Associated Press――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」
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新型コロナウイルス禍で、西側諸国の公的債務は対国内総生産(GDP)比で、第2次世界大戦以来の水準に跳ね上がった。これに対処するには、今後の物価見通しを正確に把握する必要がある。
高債務を巡る懸念はこれまで、何度も杞憂(きゆう)に終わっている。それでも当局者の間ではすでに、債務に上限を設定しようとする動きが出ている。ユーロ圏では、財政赤字の上限が再導入される公算が大きい。英国では、リシ・スナク財務相が財政は「持続不可能な」軌道にあるとして警戒感をあらわにした。
財政政策の積極派が生き残るとすれば、新たな規定が必要になる。「債券の自警団員(物価上昇圧力を招くとみる財政・金融政策に反対して売りで応じる債券投資家)」を回避することを目指すべきか、それともインフレ高進を招かないようにすべきか。
後者のアプローチは、議論の分かれる「MMT(現代貨幣理論)」と呼ばれる経済理論によって広く知られるようになったが、見解の相違は見かけとは異なる。MMT反対派の急先鋒(せんぽう)でさえ、財政政策の真の制約はインフレだとの考えを共有している。意見が対立するのは、インフレがどう機能するかだ。
伝統主義者であるローレンス・サマーズ元財務長官やバラク・オバマ前大統領の顧問を務めたジェイソン・ファーマン氏は先頃、金利がここまで低水準にある環境下では、債務は問題にならないと指摘した。両氏はインフレ調整後ベースで純利払いが対GDP比で1%未満に収まっている限り、政府は財政支出を行うことが可能だとしている。
国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミスト、オリビエ・ブランシャール氏は、国債利回りがGDP伸び率予想を下回っていることが重要との立場だ。一度限りの財政出動で債務の対GDP比率が跳ね上がっても、将来を見据えて判断する投資家は、第2次世界大戦後もそうなったように、いずれは債務水準が下がると心得ている。
いずれの主張も、市場原理への警戒を高める。つまり、規律の緩んだ債券増発は当面許されても、将来はそうはいかなくなるというものだ。債券利回りは1881年以降、約4割の期間(1980年代後の大部分を含む)において、成長率を上回って推移した。
だが、サマーズ氏もここにきて強調しているように、債券利回りはインフレとも連動している。政府が過剰な借り入れを続ければ、金利は上昇するとの考えだ。ある時点で、紙幣の増刷がデフォルト(債務不履行)に対する唯一の代替策となるだろう。これとは対照的に、MMT推進派は資金の手当てを紙幣の増刷、または借り入れのどちらで行うかにかかわらず、インフレは過剰支出の結果として起こると考えている。これは根本的な見解の対立だ。
現時点では、後者の方が事実に即して見える。主要中銀は過去10年に巨額の債券買い入れを実施したにもかかわらず、インフレを招くことはなかった。
多くのエコノミストは、物価が上がりにくいのは、社会や市場の原理によって、金利が抑制されている結果だと主張しているが、これも疑わしい。インフレ調整後の長期債利回りは、歴史的に中銀の金融政策に連動している。金本位制が実施されていた1880~1914年など、中銀が成長・物価見通しをそれほど重視していなかった時代でさえそうだった。実質の長期債利回りが目下、マイナス圏に深く沈んでいるという事実は、経済のファンダメンタルズ(基礎的な条件)というよりは、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策の方が影響の大きいことを物語っている。
債務の利払い自体も政策担当者によって総じて決定されるとすれば、それは適切な警告とはならないだろう。財政政策は過度に引き締め気味、あるいは緩めにもなる可能性があるが、依然としてそのようなルールに沿うこともあり得る。
では、政策担当者はどのような指標に注目すべきなのか。インフレ自体も適切な目安となるが、消費者物価のバスケットは粗すぎる――今年も起こったように、特定の供給不足について正確にとらえられないことが多い。政府は個人消費と産業のボトルネック(制約要因)を注視かつ管理する必要がある。また財政刺激策については、当局者の裁量に委ねるのではなく、持続的な失業増加に自動的に連動させなければならない。米国以外の国・地域は、通貨安がインフレ高進を招く恐れがあるため、為替レートを一段と注視すべきだ。
債券市場ではなく、インフレを正しく理解することで、財政政策の制約を外すことができる。
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