M1 Macと音楽系クリエイティブワーク周辺の話題を紹介する連載の第3回目は、Apple純正のDAWである「Logic Pro」のパフォーマンスをIntel MacとM1 Macで比較した。筆者のApple Siliconマシンは、Mac miniの8GBメモリ、256GB SSDという最安値構成モデルだ。
正直な話、今筆者は混乱している。前回の「最安M1 Mac mini、まだApple Silicon最適化されていないPro Toolsの性能に脱帽」では、「Pro Tools」(Rosetta 2で動作)における驚異的なパフォーマンスをご紹介した。
であるなら、Apple純正のDAWで、かつUniversal化されているLogic Proであれば、さらにその上を行く凄まじいばかりの性能を示してくれるものと期待していた。しかし、結果は期待を大きく裏切るものだった。M1 Macが負けてしまったのだ。最初のテストでは、Intel Macが圧勝した。
意外に健闘したIntel Mac
リバーブプラグインを個別に設定したトラックを増やしていき、何トラックまで再生が可能かというテストを実施した。通常、リバーブプラグインは、オグジュアリトラックに刺し、負荷軽減のため、各トラックからセンドで信号を送る。ここでは負荷をかけることだけを目的にした、テストのためのテストであることをご了解いただきたい。リアルな音楽制作活動下でのパフォーマンス判定に直結するものではない。
以下は、今回のテスト環境だ。
- M1 Mac mini(Apple M1チップ、8GBユニファイドメモリ、256GB SSDストレージ)
- Intel MacBook Pro 2020 (2.0GHzクアッドコアIntel Core i5プロセッサ、32GBメモリ、500GB SSDストレージ)
- Logic Pro 10.6.1
最初にIntel MacBook Pro 2020でLogic Proを起動し、192KHz/24bitのPCMファイルを読み込んだトラックに、Apple純正のリバーブプラグイン「Space Designer」を設定した。このトラックを1つずつ増やしては再生を繰り返すことで再生可能なトラック数を探り出した。このときのI/Oバッファサイズの設定は「1024」。そして「マルチスレッド処理」の設定は「トラックを再生」にしている。その他の設定は、デフォルトのまま。
30トラック前後までは、何事もなく普通に再生が可能だった。しかし、35トラック辺りからファンの音が気になり始め、そのまま再生を続けると次第に回転数が上がる。そして、37〜39トラック辺りで「システムが過負荷です」アラートが出て再生がストップ。
トラック数を増減させて何度か試したが、概ね37〜39トラック辺りが鬼門のようで、この辺りのトラック数で再生不可になる。Intel MacBook Proは、意外にも健闘したな、というのが素直な感想だった。ただ、ファンの高速回転による大きな音は気になった。
がっかりの結果だったM1 Mac mini
一方のM1 Mac miniも同じ条件でトライ。トラック数を増やしては再生を繰り返しというテストを実施した。ただ、驚いたことに、こちらは10トラックが限界だった。何かの間違いではないかと思い、設定を確認したり、Logic ProやMac本体の再起動を実施するなどして何度かテストしたが結果は同じだった。
Intel Macの4分の1強のトラック数で再生不可のアラートが出るという残念な結果は、あまりにも予想外だった。ただし、Intel Macとは異なり、こちらは、ファンの音は静かだ。ファン自体は、それなりの回転数で回っているようだが、MacBook Proと比較して、排気の開口部が大きいのでその分、音が抑えられているのだろう。
なぜM1 Mac mini の結果が芳しくないのだろうか。その理由がわからない。当初の触れ込みでは、Logic Proにおいて、M1 Macではプラグインを3倍まで同時使用できるのではなかったのか? Appleがデモ用に配布しているビリー・アイリッシュの「Ocean Eyes」プロジェクトでは、確かに、各種プラグインが刺さりまくっている。
それとも、今回のテストのように同一のプラグインを多用すると負荷が大きくなるのか。まあ、「Ocean Eyes」の方は、サンプリング周波数が44.1KHzだったり、半分以上のトラックは、ソフトウェア音源のものだったりするので、条件はかなり異なるのだが……。
サードパーティー製プラグインでは、M1 Macの勝利
それならばと、普段愛用し、前回のPro Toolsの記事でも紹介した「Fabfilter Pro-R」というサードパーティー製のリバーブプラグインとLogic Proの組み合わせで試してみた。こちらの結果は、順当にM1 Macの勝利に終わった。192KHz/24bitのPCMファイルを読み込んだトラックにFabfilter Pro-Rを刺して、トラックを追加していくと、Intel MacBook Pro 2020は、12トラックで再生が止まってしまった。
その一方、M1 Mac miniは、25トラック目でアラートが出て再生が止まった。何度かトラック数を増減して試したが、ほぼ同様の結果だった。こちらは、M1 Mac miniの方が2倍のトラックを処理することができる。ちなみに、Fabfilter Pro-Rは、Universal対応済みだ。つまりこのテストは、全てがUniversal化された環境で実施したことになる。これまでの結果をまとめるとこうなる。
- Logic Pro + Space Designer(純正プラグイン)は、Intel MacBook Pro 2020の圧勝
- Logic Pro + Fabfilter Pro-R(サードパーティー、Universal対応)は、M1 Mac miniの勝利
謎が謎を呼ぶテスト結果に悩む
あまりにも、謎が謎を呼ぶテスト結果に、原稿を書き終わった後も、ずーっと悩んでいる。ただ、この結果を受けて、筆者としてふと我に返った側面がある。前回と前々回のコラムでは、何かに浮かれるように「M1 Macすごい! サイコー!」という前提で検証を実施していた自分が存在したのではないか。それが要因で、「M1 Macすごい」という結論に都合の良い事実をチェリーピッキング的に積み重ねることになってはいないだろうか。
今回、筆者は、約8万円を支払って、互換性やパフォーマンスの面で未知なる新製品を購入するというリスクを負った。その選択が正しかったことを無意識下で自己肯定する過程で、偏向的思考でM1 Macに接していた可能性を完全否定する自信はない。
もちろん、前回や今回の検証結果が、真実であることに一点の曇りはない。ただ、今回のテスト結果を受け、今後、このような記事を書くことに対し、冷静な目で接する必要を痛感した。
それと同時に次のような考えも浮かんだ。筆者のように1980年代からMacを使い続けていると、米Motorola製CPU「MC68000」系からPowerPCへの移行、そして、PowerPCからIntel製CPUへの移行と、2度の大変革を経験している。その変革期において、一般ユーザーや、ソフトウェア開発者は、程度の差こそあれ、アーキテクチャの変更による機会損失や金銭的なリスクを受諾してきた。
今回、Appleは2年の移行期間を設けるとアナウンスしているが、場合によっては、ソフトウェアや周辺機器の買い替えといった対応を迫られる可能性はゼロではない。そのような事態に直面したときでも、Appleには「Apple Siliconに移行してよかったね」と言われるような施策を引き続きお願いしたいものだ。
次回は、M1 Macにおける、サンプリング型のソフトウェア音源と、モデリング型の音源についての雑感や、諸々の話題について語る予定だ。
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