ラインナップが少なくなり、元気がないどころか今や風前の灯火のようになっているAndroidタブレットに代わって、じょじょに存在感を増しているのがChromebookだ。ノートパソコンスタイルのハードウェアながら、多くのAndroidアプリが動作するようになったことで用途が広がり、ニッチ層向けから一般向けへと大きく脱皮した。
そんななかでHPが、ガツンとインパクトのあるモデルを投入してきた。「HP Chromebook x360 13c」(以下、x360 13c)がそれだ。13型クラスのクラムシェルという、普通のノートパソコンらしい外観に、中身も言わば普通のWindowsノートのよう。最上位の「スイートモデル」は第10世代(Comet Lake)のCore i7を採用し、メモリやストレージも充実した、Chromebookとしては「もったいない」くらいにハイスペックな機種となっている。
今回は、このスイートモデルのx360 13cをお借りすることができたので、さっそく使い勝手をチェックしてみたい。
スマートディスプレイ的な使い方が感動的なほどにサクサク
先述したとおり、ディスプレイ部が360度回転し、タブレット的に使うこともできるコンバーチブルタイプのx360 13cだが、やはり約1.36kgもの重量があるため、そのまま手持ちして扱うのは厳しいものがある。どちらかというとテントモードやスタンドモードで使うのがおすすめだ。
キーボードが隠れ、ディスプレイが前面に出て、よりタッチ操作しやすくなるこのテント・スタンドモードでは、オンライン会議や動画視聴にも最適なのだが、もう1つ個人的に推したいのがスマートディスプレイ的な使い方だ。
スマートフォンと同様、x360 13cでは「OK、Google」と話しかけることで音声アシスタント機能を呼び出せるようになっている。ほかのChromebookでも当たり前にできることではあるが、ここでもx360 13cのハイスペックさが存分に活かされる。音声認識し、その結果を表示するまでのスピードが感動的なほどにサクサクなのである。
たとえば「OK、Google。YouTubeで瑛人の香水を再生して」と話しかけたとき、発言が終わってから実際に動画再生がはじまるまでが6秒以内だった。arrows 5G F-51Aではだいたい7秒だったので、それと比べると1秒程度の差でしかないが、わずか1秒速いだけでも体感差は大きい。
スマートスピーカー相手だと「きっとこれは欲しい情報がもらえないだろうな」と思ってなんとなくためらっていたような内容でも、つねにきびきび応答してくれるx360 13c相手なら次々に話しかけてしまう。すぐに結果が返ってくるので、失敗を恐れずにいくらでも試したくなるのだ。まさにこれこそがスマートなディスプレイなのでは、と思ってしまうほど。
ただ、360度回転させた状態のタブレットモードについては、ちょっと扱いが難しいな、と感じてしまう。なぜなら、独自のプライバシースクリーン機能である「HP Sure View」の影響か、この機能がオフの状態でも視野角がかなり狭いのだ。IPS液晶ではあるものの、見え方としてはTN方式やVA方式のようで、少しでも斜めになると暗く見えてしまう。
したがって、寝かせてしまうとほとんど真上からでなければ視認が難しい。プライバシー・セキュリティ保護の面からは助かるが、自由な姿勢で動画や電子書籍などのコンテンツを楽しみたい、といった用途ではややストレスが溜まることになりそうだ。
「無双できる」という全能感に浸れる仕事用兼エンタメマシン
Core i7を搭載するスイートモデルの税別価格は12万4,000円から。少なくともビジネスシーンにおいては一般的なWindowsノートパソコンと同等のことができるとは言え、この価格帯であればそれなりに実用的なWindowsノートパソコンなり、MacBookシリーズなりが手に入ってしまうため、あえて同価格帯のChromebookを選ぶ理由がどこにあるのか、というところが最大の焦点になってくるだろう。
それについての明快な回答はなかなか出しづらいところではあるが、まず1つ挙げるとすれば、やはり「これまでにない軽快さ」という体験価値ではないだろうか。
Chrome OS自体、少ないリソースでも動作する軽量なOSとされてきた。そのため、従来の多くのChromebookが搭載するハードウェアも、それに沿った「そこそこのもの」に落ち着いていた。ところが、軽量OSにこうした高性能ノートパソコンの装備をぶつけることで、明らかに今までにない魅力を放っている。今後数年間は確実に「無双できる」という全能感みたいなものが詰まっているのだ。
そしてもう1つは、スマートディスプレイ的な活用方法が想像以上に役に立つところ。レスポンスの良さもそうだが、13.5型というスマートディスプレイとしてはほどよく「大画面」で、情報やコンテンツの視認性は抜群に高い。
昼間は仕事に使うとしても、朝や夜はテントモードなどにしてリビングやダイニングに置くことで、情報収集したり、動画・音楽を試聴したり、家族でクラウドにある写真を閲覧したり、とさまざまに活躍してくれる。仕事ツールでもあり、お茶の間のエンタメツールにもなるx360 13cは、普通のノートパソコンよりも身近な存在に感じられ、それこそ丸一日、朝から晩までずっと何かしらの用途に使っていられる。
できることに大きな差がなくなり、Windowsにするか、macOSにするか、という論争が今では一段落したように、今度はChrome OSも含め、もはやOSが何であるかは関係ないのだ、という思いはますます強くなる。ただただ、x360 13cという高性能な仕事用兼エンタメマシンがそこにある、というだけなのだ。かつてないほどに軽快に、1日中使っていられるデバイスを選ぶのか、選ばないのか、それのみを基準にすればいい話なのである。
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