Saturday, March 7, 2020

入国制限強化 影響に十分な目配り必要 | 社説 | コラム - 熊本日日新聞

 政府は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための新たな対策として、感染が広がっている中国、韓国からの入国制限を強化することを6日の閣議で決めた。

 両国からの入国者に対し、日本人も含め宿泊施設などでの2週間の待機を要請。発行済み査証(ビザ)を無効とし、韓国、香港、マカオからの観光目的など短期滞在で認めていたビザの免除も停止する。中韓からの航空便の到着先は成田、関西両国際空港に限定するほか、船舶による旅客輸送も停止を求める。いずれも9日から今月末までを実施期間とした。

 水際対策の徹底を求める声が与野党から出ていた中で、政府がようやく本腰を入れた形だ。安倍晋三首相は「積極果敢な措置を講じる」と強調する。だが、国内はすでに市中感染が各地で発生する段階にある。対応が後手に回ったと指摘されても仕方があるまい。

 中国の習近平国家主席の訪日延期が発表された直後に、首相が措置の方針を表明したことには唐突の感があり、中国への配慮を優先したとの疑念も拭えない。

 現に、入国制限強化の対象国である中国が「地域や世界の公衆衛生の安全を守るための措置」と理解を示す一方、韓国は「不当な措置が事前の協議もなく取られたことは納得できない」と強く反発。日本人へのビザ免除停止や発行済みビザの効力停止、日本への渡航情報レベル引き上げなどの対抗措置を打ち出した。感染症の封じ込めで協力すべき隣国との関係が、意思疎通の不足からこじれるようなことがあってはならない。

 国内でも、観光地や企業、留学生、民間交流団体など多方面から戸惑いの声が上がっている。こうした国内外にある不安や疑念を払拭[ふっしょく]するためにも、なぜ今、入国制限を強めるのか、実効性をどうみているのかを、首相は丁寧に説明する必要がある。

 運用に当たっては実体経済への影響を注視しなければならない。日本政府観光局によると、2019年の中国からの訪日客は約959万人、韓国は約558万人と、両国で全体の47・6%を占めた。それだけに日中間、日韓間の人の往来が滞ることで、宿泊施設や交通など観光関係をはじめ、小売り、製造など広範にわたる業種が打撃を受けるのは明らかだ。

 感染拡大が続き入国制限措置が長引けば、冷え込みが目立ってきた日本経済がより深刻な状況に陥る恐れがある。政府、日銀は実態に目配りし、企業の資金繰りや雇用・所得の維持などへの対応に万全を期してもらいたい。

 新型コロナウイルスの感染者数は世界全体で10万人を超えた。なお拡大が止まらない中、入国制限は世界で広がっている。しかし、各国が過剰に制限措置をとれば人やモノの動きが停滞し、世界経済は一気に縮小してしまう。

 そうした事態にならないよう、各国が研究開発や情報交換などで連携を深めることが必要だ。冷静な判断と国際協調を基に、感染症との闘いを制する道を探りたい。

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