Sunday, March 29, 2020

社説 景気後退入り コロナだけのせいなのか - 信濃毎日新聞

 全てはコロナショックのせいと言わんばかりの表現である。

 3月の月例経済報告で政府は「新型コロナウイルス感染症の影響により、足元で大幅に下押しされており、厳しい状況にある」との景気判断を示した。

 2013年から長く使い続けた「回復」の文言が、6年9カ月ぶりに消えている。景気後退入りした現実をようやく認めた。

 新型コロナが決定打となったのは確かだ。だが民間エコノミストらの間では、昨年から既に、米中貿易摩擦などの影響で後退局面に入ったとの見方が有力だった。

 それでも「回復」にこだわり続けたのは、安倍晋三政権の経済政策アベノミクスに傷をつけたくない思惑が働いたからだろう。

 アベノミクスの下、政府・日銀は金融緩和と財政出動を繰り返して景気を支えてきた。無理を重ねた末、今は政策の余地が極めて限られた状態に陥っている。

 景気後退を認めるなら、アベノミクスの負の側面が今になって重くのしかかる現状を国民に分かりやすく説明すべきだ。その上で、新型コロナによる危機にどう立ち向かうかを論じる必要がある。

 「厳しい状況」との表現はこれまで、リーマン・ショック後の09年や東日本大震災があった11年の月例経済報告で使ってきた。

 匹敵するような悪化が避けられないかもしれない。昨年秋に消費税を増税したばかりで、10〜12月期のGDP成長率が年率換算で前年比7・1%減と、大幅に落ち込んだタイミングでもある。

 ただ今回の危機は、リーマンの時のように金融機関が過剰債務を抱えているわけではない。震災と違って生産設備などがダメージを受けてもいない。感染が終息すれば急回復する可能性はある。

 問題はいつ終息するかだ。世界中で人やモノの動きが止まった状況が長く続けば製造業などは厳しい。社会活動の自粛はサービス業に深刻な影響を及ぼしている。

 政府は大規模な経済対策を検討中だ。だが感染防止で社会活動を抑え込んでいるうちは、商品券の配布といった消費拡大策は十分な効果を期待しにくいだろう。

 まずは終息までの間をどうしのげるかに集中すべきだ。打撃を受ける企業や個人を直接支援するタイプの政策を十分な規模で早急に実施しなくてはならない。

 企業業績の悪化が長引けば給与削減や大規模リストラにつながる恐れもある。そうなれば、打つ手の乏しい金融と財政が終息後もより厳しい状況に追い込まれる。

(3月30日)

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