日常生活といえばイベントがつきもの。新型コロナをめぐっては、安倍総理の要請を受け、あらゆるイベントが中止や無観客開催に追い込まれているが、そうした措置に効果があるのか、あらためて考えたい。
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「立食パーティなど、多くの人が集まって会話を交わす機会のあるイベントは、中止や延期にしたほうがいい。しかし、クラシック音楽のコンサートなど、対面であまり話をしないイベントは感染拡大のリスクは低いと考えます」
と言うのは、国際医療福祉大学の和田耕治教授。感染症に詳しい浜松医療センターの矢野邦夫副院長は、感染症に関する学会や集会までが中止になっている現状を憂えたうえで、こう提言する。
「自粛を考慮すべきなのは、熱がある人が咳をしたとき、飛沫が2メートル程度飛びそうで、かつ換気が悪い場所で行われるイベント。狭い部屋に大勢が集まり、楽しくなると騒いで飛沫を遠くに飛ばす飲み会は、自粛してもいいでしょう。一方、マラソンはもちろん、大相撲は会場が広く、野球も屋内球場でも広いので換気に問題がありません。それに発熱や咳の症状がある人の参加を防げるなら、どんなイベントも開催可能だと思います。気をつけるべきことを周知徹底したうえでイベントを再開するのは一案で、ロックのコンサートなら、メンバーが“みんな手洗いしてるか!”“咳や発熱がある人いないよな!”などと呼びかけるのは効果的ですね」
必要なのは、敵を知ったうえで、冷静に行動することである。
3・3兆円が失われる
矢野副院長は、
「2009年の新型インフルエンザの際、致死率が低いとわかったのちも、過剰に対策したことを反省したはずでした。それにもかかわらず、今回も致死率が低いとわかってなお、過剰な対策をしています」
と指摘するが、それがなにをもたらすか。09年当時、感染者が出た関西大倉中学・高校(大阪府茨木市)の古川英明校長が回想する。
「感染が発覚して休校にしている間、生徒が制服をクリーニングに出しに行くと、制服を見た店から“受け取れない”と言われたり、学校に“菌がうつる”“茨木から出ていけ”という電話が十数件かかってきたりしました。また、感染経路がスクールバスだったのでバスを止めたため、タクシーに乗る必要がある職員がいたのですが、学校名を告げると“そんなところは知らない”と、乗車拒否されたこともありました」
敵を知らずに過度に恐れたあまり、人間の醜さが露呈してしまった恰好だ。無駄な自粛は経済の崩壊にもつながりかねない。第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏が言う。
「今回は東日本大震災後の自粛の動きと似ているので、目安になると思います。当時、自粛がなかったと仮定した場合とくらべ、2四半期で消費が2・2兆円下がった。いまは消費の規模が拡大したので、当時と同じ比率なら2・3兆円下がります。また、震災時はインバウンドも3四半期で0・5兆円下がりましたが、インバウンドの規模が倍くらいのいまは、同程度の影響で1兆円減ります」
過剰に恐れれば、単純計算で3・3兆円が失われるというのである。
「本当にいろいろなことが中止になって、いろいろな関係者が負担を負っているのもたしか。コロナウイルス以上に私たち自身の対応で経済が止まり、追い詰められる人が増えてしまう可能性もあります」
と、京大大学院医学研究科の中山健夫教授が憂える。
「よくわからない情報を前に恐怖心が増幅され、インフルエンザのほうが恐ろしいかもしれないのに、未知がゆえにコロナウイルスを怖がってしまう。いまフェイクニュースがSNSを介し、ウイルス以上に世界を駆け巡り、間違ったインフォメーションの拡散を指すインフォデミックとして注目されています。一方、人を守るのも情報。コロナウイルスは症状が軽くても人に感染しやすい反面、致死率は低い。パニックになると負の情報しか見えなくなったり、極端に走る人に引っ張られて群集心理が形成されたりします。そうではなく、正の情報も見て落ち着くことが大事で、それこそが少しでもダメージを小さくする方法です」
自分を守り、家族を守り、ひいては経済へのダメージを最小限に抑え、コロナウイルス禍を乗り越える。そのためには、一人ひとりが過度に恐れず、日々正しく過ごすしかないのである。
「週刊新潮」2020年3月12日号 掲載
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March 15, 2020 at 09:00AM
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