過剰な酸素投与の潜在的な有害性は分子レベルで説明されているが、臨床研究は限られており手術中の患者に及ぼす影響は不明である。米・Vanderbilt University Medical CenterのDavid R.McIlroy氏らは多施設共同後ろ向きコホート研究の結果から、全身麻酔下に手術を受けた患者において超生理学的酸素投与の増加と術後の急性腎障害、心筋障害、肺障害の発生に関連が認められたことをBMJ(2022; 379: e070941)に報告した。
米国42施設、35万例を調査
手術中の酸素投与は虚血性組織損傷および手術部位感染のリスクを減らし、吻合部位の治癒促進をもたらすとして、麻酔を用いた手術の基本的な構成要素となっている。一方で過剰な酸素投与は、脂質、DNA、蛋白質の変性に影響を与える活性酸素種の生成に関連するなど潜在的な有害性が指摘されている。また、全身麻酔を受けた患者の80%以上が、正常な血中酸素レベルを維持するための必要量を超えた酸素投与にさらされていると推定される。
McIlroy氏らは今回、米国の42医療施設が登録するMulticenter Perioperative Outcomes Group(MPOG)のデータを用い、成人患者に対する術中の酸素投与と術後の臓器損傷の関連について検討。対象は2016年1月〜18年11月に全身麻酔と気管内挿管で120分以上の手術を受けた成人35万647例〔年齢中央値59歳(四分位範囲46〜69歳)〕。女性は18万546例(51.5%)だった。手術時間の中央値は205時間(四分位範囲158〜279分)だった。
主要評価項目は、Kidney Disease Improving Global Outcomesで定義された急性腎障害、手術後72時間以内に血清トロポニンが0.04ng/mLを超える場合と定義した心筋障害、国際疾病分類の病院退院診断コードを使用して定義した肺障害とした。
術中の酸素投与については、分刻みの吸入中酸素濃度(FIO2)および動脈血酸素飽和度(SpO2)のデータを調査した。また、超生理学的酸素投与の強度と期間が酸素量に影響を与えるため、酸素曝露を定量化する吸入酸素濃度の曲線下面積(AUCFIO2)の解析も行った。
酸素投与量の増加と急性腎障害、心筋障害、肺障害に関連
検討の結果、適格基準を満たした対象のうち手術後に臓器障害が認められた例は、急性腎障害が29万7,554例中1万9,207例(6.5%)、心筋障害が32万527例中8,972例(2.8%)、肺障害が31万2,161例中1万3,789例(4.4%)だった。全疾患ともに在院日数の延長および30日死亡率の上昇が認められた(全てP<0.001)。
次に、ベースラインの共変量およびその他の潜在的な交絡因子を補正してAUCFIO2を解析したところ、25パーセンタイルの患者と比べ、75パーセンタイルの患者は急性腎障害〔オッズ比(OR) 1.26、95%CI 1.22〜1.30、P<0.001〕、心筋障害(同1.12、1.07〜1.17、P<0.001)、肺障害(同1.14、1.12〜1.16、P<0.001)との有意な関連が認められた。
また、AUCFIO2が25パーセンタイルの患者と比べ、75パーセンタイルの患者で脳卒中(OR 1.09、95%CI 1.05〜1.13、P<0.001)、30日死亡率の上昇(同1.06、0.98〜1.15、P=0.03)との関連も認められた。
McIlroy氏らは、「術中の超生理学的な酸素投与量の増加は、術後の急性腎障害、心筋障害、肺障害のリスクの増加と関連することが示された。術中の酸素投与に関する指針を導くためには、十分な検出力を有する大規模な臨床試験が求められる」と指摘している。
(菅野 守)
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