Friday, December 9, 2022

グッドイナフ(足るを知る)の概念が今、欧米社会に響く理由【コトバから考える社会とこれから】 - VOGUE JAPAN

かつてベストセラーになった『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)── 100年時代の人生戦略』は、健康や家族・友人との人間関係といった「無形資産」が幸福感をもたらし、よりよい人生につながると主張した。必要十分な人生は、これらの無形資産を高められる持続可能な生き方でもある。

公平な社会を求める議論はメリトクラシー批判にもつながる。ただし、成功者が自らの恵まれた境遇を認めて謙虚になるだけでは不十分だとアルパートは考え、そもそも成功の定義を「すべての人が尊厳を持って生きられる世界の実現に貢献すること」に変えるべきだと主張する。「勝者も幸せとは限らない。人生の意義は、他人を負かすことではなく、ともに働くことから生まれるのですから」。実際、心理学の複数の研究で、他者に勝って成功を収めた人は、むしろ幸福度が低い傾向にあることも指摘されている。

アメリカでも啓蒙され始めた“引き算子育て”の重要性

アメリカでは、与えすぎ、詰め込みすぎの子育てへのカウンターとして、ミニマリスト・ペアレンティングを推奨するエキスパートや書籍が話題に。自身も6月13日付のワシントン・ポスト紙で、引き算的子育てを実践中で、ビジネスにおける引き算の効用に関する著書を持つバージニア大学のライディ・クロッツ教授は、「常に自分にはやらない、引く、という選択肢があることを意識することから始めるべき」だと説く。Photo: Getty Images

資本主義社会において、必要十分な生き方を貫くことは可能なのか。「非倫理的な生き方を奨励する世界にあって倫理的な生き方を実践するのは、歴史的にも常に困難でした。だからこそ、謙虚さや思いやりを発揮できる世界を実現する必要があるのです。完全な平等はあり得ないからこそ、不正義を見過ごすことは許されません。すべての人が誠意を持って公平な社会を作り出そうと努力しない限り、今後も不平等は広がる一方でしょう」とアルパートは主張する。「地球全体の幸福は、私たちが必要十分でいられるかどうかにかかっています。一部の人が自分の取り分を多くすることをやめれば、人類全員が必要十分なものを入手できるのです」。CO2排出許容量や資源を奪い合う競争原理を維持する限り、地球の危機は脱せない。気候変動により人新世に突入した今、必要十分な生き方は、唯一の選択肢と言えるのかもしれない。

Text: Reina Shimizu Special Thanks: Asumi Hasegawa Editor & Subtext: Yaka Matsumoto

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