Tuesday, April 7, 2020

過剰な演出を抑え輝く、出会いは偶然の導き 菅田将暉&小松菜奈がW主演「糸」(夕刊フジ) - Yahoo!ニュース

 24日公開予定の映画『糸』。シンガー・ソングライターの中島みゆき(68)の同名の名曲にインスパイアされた作品で、菅田将暉(27)と小松菜奈(24)がW主演を務め、メガホンは瀬々敬久監督(59)。出演者の齋藤工(38)がパンフレットで「名作になる要素しかない」と発言しているが共感できる。

【写真】「男前すぎる!」フンドシ姿を披露した菅田将暉

 映画を見て思い出したのは、仏教用語でいうところの生老病死。つまり生まれること、老いること、病気になること、死ぬことの4つの苦だ。劇的過ぎる人生を背負う人物が登場するわけではないが出会い・生きる人々が丁寧に描かれている。

 仏教の世界で苦とは、単に苦しいことを意味するのではなく、思い通りにならないことをいう。出会いはまさにそれ。

 中島みゆきの歌詞は♪いつ 巡り逢うのかを 私たちは いつも知らない♪と伝える。思い通りに人に出会うことはできない。偶然の導きでしか出会えないという不思議に気づいてみると過剰な演出を抑えた今作の輝きがすくい取れる。130分のミュージックビデオと片付けなくて済む。

 菅田が演じる高橋漣と小松演じる園田葵は平成元年生まれ。中学時代に出会い、離れ、別々の暮らしの中で再会し、それぞれの世界のなかで気づかないまますれ違い、おしまいに…という流れ。リーマン・ショック、東日本大震災、子供食堂、虐待、海外で働く日本女性など平成を描くのに避けて通れない出来事や社会の様変わりも描かれる。

 印象的なシーンがある。リーマン・ショックでとんだファンド会社の社長(斎藤工)が逃れる先が沖縄の島。小松演じる葵が逃亡先に気づき訪れた際、現地の人がお墓の前で歌い踊る日常に出くわす。先祖からのつながりがなければ現在がないことが、象徴的にうまく描かれている場面だ。

 葵が信頼する人に裏切られシンガポールの屋台でカツ丼をかきこむシーンもいい。食べる、のではなく、周囲の目も気にせずかきこむ。この人は生きられる、強い、と思わせる場面で美しい。

 生老病死の仏教用語とともに、中島みゆきのデビュー曲『時代』(劇中では中国語で流れる)がよみがえった。その歌詞の世界観が本作の世界観と合致するからだ。

 瀬々監督はそこまで意識して撮っているのではなかろうか。少なくともみゆきファンとみた。

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April 07, 2020 at 02:56PM
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