Tuesday, April 28, 2020

社説 罰則検討発言 強権広げる懸念が拭えぬ - 信濃毎日新聞

 強権的な法の運用を社会が受け入れる下地を作らないか、心配だ。

 西村康稔経済再生担当相が新型コロナウイルス特措法に罰則を盛り込む法改正について言及した。知事の休業指示に従わない事例が多発するなら、強い強制力のある仕組みを検討せざるを得ない、としている。

 営業をやめない一部のパチンコ店へのけん制にとどまらない。休業を強制する法整備の実現にまで踏み込んだ発言である。

 私権の制限は社会のありように深くかかわる。ここは短慮を避けて、副作用の危険を十分考慮すべきだろう。

 一部パチンコ店は特措法に基づく知事の休業協力の要請に従わなかった。このため知事らはより強い権限がある同法45条の要請に切り替え、店名を公表した。

 大阪府はなおも従わない店に対して、近く行政処分に当たる同条の「指示」を出す方針だ。

 いずれの措置にも罰則はない。現状で知事ができるのはここまで、となる。

 営業を続ける店に世論の非難が集まる中、罰則の新設は一見分かりやすい。確かにパチンコ店は感染リスクが小さくない。

 これが「アリの一穴」となって私権の制限がエスカレートし、営業の自由が狭められたり、強権的な措置を許容する空気が生まれたりする懸念が拭えない。

 対象はパチンコ店に限らないだろう。西村氏は罰則の具体的な内容を語っていないが、拙速な立法は許されない。

 そもそも政府は休業補償に否定的な立場を貫いている。不足を補う自治体の支援にも差がある。

 不十分な支援をそのままにして休業を要請し、指示に従わないなら罰するというのでは、理解が得られないだろう。

 事業者の経営環境はそれぞれだ。休業したくてもできない事情があれば、きちんと耳を傾ける必要がある。国の指針も45条の「指示」では事業者に弁明の機会を与えねばならないとしている。

 その弁明の機会も、緊急の場合は「必要ない」とされた。有無を言わさぬ対応が可能である。

 店名公表は強硬な措置だ。同調圧力と社会的な制裁を期待する一種の罰であり、「嫌ならば従え」というやり方である。世論があおられて、店に暴力が向けられる危険すらある。

 非常時とはいえ、脅しや罰で従わせるのではなく、休業可能な支えによって導くのが筋であり、有効でもある。

(4月29日)

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