冒頭のグラフ(図3)は、山梨大学の島田眞路学長らの医療チームが厚生労働省などのデータを元に作成したPCR検査の実施件数を曜日別のグラフにして発表したものだ。青い折れ線グラフが日本国内の地方衛生研究所と保健所が実施したPCR検査の推移。黄色い折れ線が台湾の推移。赤い線で四角で囲んだのが曜日で金曜、土曜、日曜だ。
このグラフはPCR検査の実施されている曜日に注目して、新型コロナウイルスの感染拡大を比較的押さえ込んでいる台湾と、今の日本の現状を比較したものだ。
黄色い線(台湾の検査数)が週末になったからといって大きく下がることはないのに、青い線、つまり日本国内の検査数(ごく最近までほとんどを担ってきた地方衛生研究所と保健所によるPCR検査)は週末がやって来るたびに大きく下がっている。
山梨大学・島田眞路学長ら山梨大学医学部附属病院の医療チームは、1月下旬からPCR検査の体制を構築してきた。
山梨大学病院といえば3月末に心肺停止状態で徹急搬送された生後8か月の乳児から新型コロナウイルスを検出したことで一躍話題になった病院だが、島田学長以下、大学のホームページなどを通じて日本国内のPCR検査数をもっと増やすべきだとをさかんに発信している。
4月22日(木)に「山梨大学における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との闘い」(第5報)として、上記のグラフなどを発表した。島田学長はこれまでの発信で、様々な医療データを分析しながら「日本の検査のレベルは途上国並み」などとかなり強い表現で国内のPCR検査体制を充実させるように提言してきた。「PCR 検査の不十分な体制は日本の恥である」とまで発言している。これは尋常なことではない。
注目すべきなのは、島田学長ら山梨大学のチームの発信が厚生労働省や諸外国などのデータを学術的に分析した上でのアカデミックな研究者としてのものであることだ。さらにその発信が、現在、日本政府の新型コロナウイルス対策の様々な政策を事実上推し進めている「専門家会議」のやり方には大きな不備があると警鐘を鳴らすものであることも注目される。
政府が進めている新型コロナの政策に対して、地方の大学病院が実際に患者を検査して治療にあたってる立場から、大学長以下、真っ向から「それは間違っている!」と主張し続けているのだ。大学病院を抱えて研究も行っている地方の大学がデータに裏づけされた批判を続けている。そのことはマスコミはもっと注目していいはずだ。
山梨大学の島田学長らの主張は、テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』の出演者である岡田晴恵・白鴎大学教授やコメンテーターの玉川徹とほとんど同じ主張だ。岡田晴恵教授らは島田学長らの発信も分析して参考にした上で日々の発言を行っている。
4月26日(日)、東京都の新たな感染者の数が減った。
13日ぶりに100人を下回ったことでニュース番組でキャスターたちがやや安堵した様子で伝えている。
東京都 新たに72人感染確認 13日ぶり100人下回る 新型コロナ(NHKニュース)
日曜日に新たな感染者の数が下がる。そもそも日曜日はPCR検査の数が少ないからだ。
日本国内で検査を行う保健所や地方衛生研究所が土日は休みになるため、PCR検査の件数そのものが少なくなってしまうからである。
島田学長らは発表した原稿で、日曜日など週末に下がるPCR検査検査件数は結果として「途上国並み」の検査体制になっていると解説する。
「週末に検査数が減る」=「新たな感染者数が減る」ことそのものが問題だと指摘しているのだ。
島田学長らは大学のホームページに発表した原稿の中で上記のグラフの意味を次のように分析している。
地方衛生研究所も保健所も行政機関である。職員は公務員で多くは土日が基本的に休みだ。
だが、病気というのは本来、曜日を選ばない。もしも自分や自分の家族が新型コロナが疑われる症状になったときを想像してみればいい。それがたまたま週末で、週末だったことでPCR検査をなかなかしてもらえずに他の国(ここでは台湾)ならばしてもらえたはずの治療が受けられなかったとしたら…。そう考えてみればこれは問題ではないか、というのだ。症状が出始めたのにすぐにPCR検査をしてもらえず、その後に容態が急変してしまった岡江久美子さんのケースを見ても「疑わしい状態になってもすぐに検査してもらえない」ということは命に直結しかねない。島田学長らは「土日はPCR検査が進まない」ことをなんとなく無批判に受け入れてしまっているような厚生労働省や専門家会議、そしてメディアのあり方に疑問を投げかけている。
島田学長らの原稿はさらに続く。
PCR検査独占の実態
島田学長らは、日本ではPCR検査が行政機関である地方衛生研究所と保健所が「ほぼ独占」し、 そのことがわが国の検査の実施を「途上国レベル」にしてきたと指摘している。
山梨大學の島田学長らは、政府の専門家会議の PCR検査に関する姿勢を「大失態を招来した」とかなり手厳しい表現で批判している。
その上で現状では地方衛生研究所や保健所を救うことが必要だと呼びかけている。
大学に期待される蜂起-直ちに地方衛生研究所・保健所を救え!
島田学長らは現状のPCR検査の体制を単に批判しているだけではない。地方衛生研究所や保健所に検査の負担が集中している現状を解消するための方策も示している。建設的な批判なのである。
それには自分たちのような地方の大学(=大学病院)がその役割を担えるはずだとして、山梨大学のような地方の国立大学がもっとPCR検査の体制を充実させるべきだと訴えている。
「大学が蜂起を!」という表現。かつて1970年代に隆盛期を迎えた学生運動の時期にはよく聞かれた古臭いアジテーションのフレーズだ。かつての社会主義革命のように、圧政に抵抗する人々が自ら武器を手に取って立ち上がるのが蜂起だ。学生運動でも権力や権威を疑った若者たちがそれに立ち向かうというとき、この「蜂起」という言葉が熱心に語られていた。
大学長という立場は、大学組織のトップでいわば管理者側=体制側である。そういう立場の人がこういう古臭い言葉を使って、全国の大学人に向かって、知性に働きかけて、意識を変えてほしいと訴えているのはよほどの覚悟があってのことだと思う。
新型コロナは未曾有の国難である。
こうした国難の時期には、それぞれの立場で声を上げること、そして現場を変えていく努力が必要だ。
国難の中で発信する人こそが国や社会をほんの少し変えていくのかもしれない。
筆者は週末、T再放送されていた10年ほど前のTBSドラマ『JIN-仁』を見ていた。青年医師が幕末の時代にタイムスリップして患者を救い、当時の人たちが身近に手に入れられるものを駆使しながら現在の医療知識で患者を救っていく物語だ。医療の意味を考えながら歴史というものを考える。主人公は坂本龍馬とも接点を持つようになって「人は生きている間に何をすべきなのか」を自問する場面がモチーフになっている。
山梨大学の島田学長がドラマの主人公のようだとか坂本龍馬みたいだとかそんな安直なことをここで書きたいわけではない。
だが大学という知的な力を究める機関でトップが自ら旗を振って、「国の政策は間違っている」と発信し続けている山梨大学の取り組みは、国の危機にあって世の中をなんとか変えていきたいと願った幕末の志士たちの活動に通じる面は確かにある。
その呼びかけに応じる他の大学の医学部の教員たちはいないのだろうか。
あるいはこの呼びかけの意味を報道機関として受けとめて記事や番組にしようとするメディアはないものなのか。
大学人が自らの専門的な知識と経験、そして誇りをかけて行っている発信にこれからも注目していきたい。
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April 27, 2020 at 04:09AM
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「100人切った」で喜ぶな!感染者数が日曜に下がるのは「途上国並み」「日本の恥」と大学長が問題提起(水島宏明) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース
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