Friday, December 22, 2023

今年谷崎賞の話題作『水車小屋のネネ』……著者の津村記久子さん、「過剰な親切はうそくさい、緩い場を書きたかっ ... - 読売新聞オンライン

 大型インコのヨウムと人々の輪を描く津村記久子さん(45)の『水車小屋のネネ』(毎日新聞出版)が評判を呼んでいる。児童文学的な温かさを漂わせながら現代の闇を見つめ、谷崎潤一郎賞も受賞した。「自分が読んできた児童文学の影響を書きたいと思った」

 人の言葉を話すヨウムに長年心をひかれてきた。「いつか書いてみたいと10年以上構想してきたが、書く機会がなかった。今回、新聞連載で1年以上飽きずに書けるようにと興味のあったヨウムを素材にしたんです」。かねて興味のあった水車も掛け合わせ、本作の世界が広がった。

 8歳の少女〈律〉は、母の交際相手から虐待を受けて逃げ出し、18歳の姉〈理佐〉とともに違う町で暮らし始める。姉が働くそば店の夫婦ら周囲のさりげない支えにより2人は自立し、学校生活や結婚など様々な経験を重ねて40年の月日を過ごす。そばにはいつも、水車小屋で番をするヨウムの〈ネネ〉がいた。

 「そこそこしんどくて貧乏だけど、ちょっとずつ人が親切にしてくれる話にしたかった。理佐の自立を守り律を守りながら……という感じで。過剰な親切はうそくさいですから。『共同体』を作ろうとしたら気持ち悪くなるのは歴史からわかること。人々が出たり入ったりできる緩い場を書きたいと考えました」

 ネネが会話の意味をどこまで理解しているかは謎だ。「ネネは人間には話せない悩みを話せる相手だけど、本当のところは理解していない。本人の好みで発話しているだけ。そんな存在が真ん中にいて人々を結びつけている」。挫折した元音楽家など多彩な背景の人々が集い、再び歩み出す。

 大阪生まれ。9歳で両親が離婚した。就職氷河期に世に出て、最初の就職先で上司からのパワーハラスメントに遭った。2005年にデビューし、芥川賞を09年に受けた「ポトスライムの舟」、『この世にたやすい仕事はない』など世の片隅で理不尽と闘う人を描いてきた。

 副賞の100万円は子どもたちのために寄付する。もともと国境なき医師団などに寄付してきたが、「苦労する子どもを書いてきた人間として」寄付先を検討した。「それに、谷崎賞はいただけると思っていなかったから(賞金は)拾得物に近いので」(武田裕芸)

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