Monday, October 30, 2023

子どもをうつ病にしているのはSNSではなく親からの過剰な干渉 ... - GIGAZINE(ギガジン)


SNSが子どものメンタルヘルスに悪影響をおよぼす」という意見は頻繁に耳にするもので、実際にアメリカの司法長官グループは「InstagramやFacebookは子どものメンタルヘルスに害を与える」として開発元のMetaを訴えています。しかし、SNSよりも子どもの生活のあらゆる側面を絶えず監視し干渉する「ヘリコプターペアレント」の方が、子どものうつ病を引き起こす原因になっているという研究結果が公開されています。

Decline in Independent Activity as a Cause of Decline in Children’s Mental Well-being: Summary of the Evidence - The Journal of Pediatrics
https://www.jpeds.com/article/S0022-3476(23)00111-7/fulltext

New Study In The Journal Of Pediatrics Says Maybe It’s Not Social Media, But Helicopter Parenting That’s Making Kids Depressed | Techdirt
https://www.techdirt.com/2023/10/26/new-study-in-the-journal-of-pediatrics-says-maybe-its-not-social-media-but-helicopter-parenting-thats-making-kids-depressed/


アメリカ心理学会が複数の先行研究を分析したところ、ソーシャルメディアが子どもたちに悪影響をおよぼすという先行研究が複数存在するにもかかわらず、その因果関係を証明できた研究は存在しなかったそうです。

分析結果によると、ほとんどの子どもたちにとってソーシャルメディアは本質的な利益も害もおよぼさない模様。一方で、一部の子どもたちにとってソーシャルメディアは恩恵を得られるものであることも明らかになっています。具体的には、オンライン上で同じ考えを持つ人を見つけてコミュニケーションを取ることができるという点が、子どもがソーシャルメディアを使う上での利点のひとつとして挙げられました。一方で、ごく一部のケースではソーシャルメディアが子どもが抱える既存の問題を悪化させる可能性が指摘されています。


過去の研究を分析するとソーシャルメディアが子どものメンタルヘルスに与える悪影響は非常に限定的であることがわかります。しかし、ソーシャルメディアが子どもにとって悪いものであるという通説は一般に広まり続けており、アメリカ保健福祉省公衆衛生局は「ソーシャルメディアと若者のメンタルヘルス」と題した報告書を公開し、SNSを利用することで生じる悪影響の存在を指摘し、ソーシャルメディアを規制する必要があると主張しています。

SNSは子どもや若者にいい影響も与えるが深刻なリスクをもたらす可能性があるとの報告、公衆衛生局長官が政策立案者・テクノロジー企業に行動を促す - GIGAZINE


このような「ソーシャルメディアが子どもに悪影響をおよぼす」という通説は、子どもたちをソーシャルメディアから遠ざけるための年齢確認規則の追加や、年齢制限の追加につながっているとTechdirtは指摘。

このようなソーシャルメディア規制を推進する人々は、10代の若者の自殺率に関するグラフを引用し、「自殺率の上昇がソーシャルメディアの台頭と相関している」と主張しているそうです。以下のグラフは15~19歳の若者の自殺率を示したグラフで、ソーシャルメディアが台頭し始める2000年以降、男女ともに自殺率が上昇し続けていることがよくわかります。


しかし、10代の若者の自殺率に関するデータを2000年以前にまでさかのぼると、1970年代から1990年代前半にかけて自殺率が大幅に増加し、その後、2000年までにかけて一気に自殺率が急降下していることがわかります。


上記のグラフとソーシャルメディアと子どものメンタルヘルスの悪化を結びつけようとした研究がことごとく失敗したことを踏まえると、子どものメンタルヘルスを悪化させのは他の要因が関与している可能性があります。

小児科関連の査読付き医学誌のThe Journal of Pediatricsに掲載された最新の研究では、ソーシャルメディア以上に子どものメンタルヘルスに悪影響をおよぼす可能性のある要因を特定することに成功しています。同研究によると、子どものメンタルヘルスに悪影響をおよぼしているのは、ソーシャルメディアよりもヘリコプターペアレントだそうです。


同研究では子どもが大人の付き添いなしで近所や町を移動する能力である「自立した移動能力」に焦点が当てた先行研究を分析しており、これによると1970年から1990年にかけて、子どもの自立した移動能力が大幅に減少していることがわかるそうです。

例えば、親が小学生の子どもに与える「許可」に関する調査によると、イギリスで小学生が学校からひとりで歩いて帰る許可が与えられる割合は、1971年時点では86%だったにもかかわらず、1990年には35%、2010年には25%まで減少していることが明らかになっています。また、公共バスの使用許可が与えられる割合は、1971年は48%、1990年には15%、2010年には12%にまで減少しているそうです。


さらに、2010年から2012年にかけて実施された16カ国での子どもの「自立した移動能力」を比較した別の研究では、フィンランドが子どもに自立した移動能力を多く与えている国として際立っていることが明らかになっています。同研究では、フィンランドの子どもたちは7歳までに徒歩圏内を自由に移動したり、自転車で移動したりすることができるようになり、8歳までに大多数が幹線道路を横断する許可を得たり、学校からひとりで帰宅したり、暗くなってからひとりで外出したりする許可を得ているそうです。さらに、9歳までには大多数が自転車で幹線道路をひとりで走行できるようになり、10歳になると大多数が路線バスを使って移動することが可能となるそうです。

アメリカの全国個人交通調査によると、徒歩または自転車で学校に通っている小学生は、1969年時点では47.7%であったのに対して、2009年には12.7%にまで減少しています。そのため、論文では「アメリカの子どもに対して親が与える『自立した移動能力』に関する研究は見つかりませんでしたが、アメリカの子どもが与えられる『自立した移動能力』は、フィンランドよりもイギリスに近いはずです」と指摘しています。

加えて、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のデータによると、15歳未満の子どもの自殺率は1950年から2005年までに3.5倍に増加しており、2005年から2020年までにさらに2.4倍に増加しています。これほど大きく自殺率が増加した年齢層は他になく、2019年には自殺が10~15歳の子どもの死因の第2位になっており、不慮の傷害に次ぐ死亡の原因となっていることが明らかになりました。さらに、2019年に行われた青少年危険行動調査によると、アメリカの高校生のうち自殺を真剣に考えたことがある学生の割合は18.8%、自殺計画を立てたことがある学生の割合が15.7%、1回以上自殺未遂を行ったことがあるという学生が8.9%、治療が必要なレベルの自殺未遂を行ったことがある学生の割合が2.5%だそうです。


さらに、子どもが家庭で自主的な活動に費やせる時間と将来の幸福を予測する心理的特徴との関係も調査されています。調査の結果、自己構築時間(主に自由遊びに関係する時間)の量と、「感情制御と社会的能力」および「2年後の自主規制」との間には有意な正の相関関係があることが明らかになっています。また、子どもたちが故意に危険な状況に身を置くような遊び(木登りなど)を行うのは、恐怖症の発症を防ぎ、緊急事態に効果的に対処できるという子どもの自信を高めることにつながり、将来の不安を軽減することに役立つことも示されています。

他にも、成人に幼少期の経験を回想させるという研究では、幼少期に独立した活動を許可されていた人は、その後の人生における幸福度が高いことも明らかになりました。小学生時代に自由で冒険的な遊びをたくさん行ったと回答した人は、そういった経験が少ないと回答した人と比べ、社会的に成功している確率が高く、自尊心が高く、成人後の全体的な精神的および肉体的健康が良好であると評価されています。別の類似研究でも、小児期の自由遊びの量が成人後の社会的成功および目標の柔軟性(生活条件の変化にうまく適応する能力)の尺度と正の相関関係があることも明らかになりました。

さらに、大学生の親の過保護度合や過剰管理の度合いを評価した研究では、過保護な子育てスタイルと不安やうつ病の度合いには、正の相関関係があることが明らかになっています。つまり、干渉の多い親の子どもは、うつ病になりやすいというわけです。

研究チームは「若者のメンタルヘルスに関する最新の議論の多くは、デジタル技術の利用増加、特にソーシャルメディアの役割に焦点を当てています。しかし、これらに関する研究の体系的なレビューでは、被験者がスクリーンを眺めている時間やソーシャルメディアを利用している時間のいずれかがメンタルヘルスの悪化につながっていると主張するものばかりで、2つの間に相関関係があるという主張を裏付けるような研究結果はほとんどありません」と指摘しています。

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