自分の法的な性別を、みずから認識している性別に合わせたい。その切実な望みに、法は長く、過酷な条件を突きつけてきた。国会はただちに是正しなければならない。
戸籍上の性別を変更するには、生殖腺(精巣・卵巣)の除去が必要だとする性同一性障害特例法の規定について、最高裁大法廷がきのう、憲法違反と判断した。
憲法13条が保障する「自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由」に照らし、過剰な制約だと述べた。
特例法は04年に施行され、これまでに1万人以上が性別を変更した。対象になるのは、2人以上の医師の一致した診断を受けた当事者。18歳以上で結婚しておらず未成年の子がいないことに加え、「生殖腺がないか、その機能を永続的に欠く」との規定があり、精巣・卵巣の除去手術が必須とされてきた。
しかし、身体への負担が大きく、後遺症などの危険も伴う。健康上・経済上の理由で受けられない、希望しない当事者がいるのも当然だろう。
実際のところ、特例法の施行後、国内外で臨床・研究が進み、変更後の性別に体を合わせる手術はかつて治療の最終段階とされていたが、今はだれにでも必要とは考えられていない。ホルモン投与などで自認する性別で社会に適応している人も多い。最高裁の決定はそうした変化もふまえた現実的なものといえる。
最高裁第二小法廷は19年、同じ規定について、「変更前の性別の生殖機能で子どもが生まれることになれば混乱が生じかねない」などとして合憲としていた。今回は、性別変更した人が子どもをもうけるケースは極めてまれと考えられることや、当事者への理解が社会に広がったことなどをふまえ、声を上げにくい少数者の権利を守ることをより重んじる姿勢に転じた。
もう一つの論点だった「変更後の性別の性器に近い外観を備える」との規定をめぐる審理は高裁に戻された。これがある限り、法的な性別変更に手術が必要となる当事者はなくならない。3裁判官はこの規定も違憲と反対意見で指摘している。
法的な性別変更に一律に手術を求めることには、特例法の制定当初から懸念の声があった。見直しを怠ってきた国会の責任は重い。違憲とされた規定と併せ、外観についての規定も、裁判所の判断を待つことなく、自ら見直しに臨むべきだ。当事者への誹謗(ひぼう)中傷をはじめ、見過ごせない差別もいまだある。尊厳を守る法整備に、遅ればせながら取り組まねばならない。
からの記事と詳細 ( (社説)性別変更決定 人権見つめ法の是正を:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル )
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