[東京 8日 ロイター] - 異例に早い梅雨明けで日本を襲った6月の停電リスクは、ロシア産天然ガスの輸入が止まる恐れと相まって、電力・エネルギー問題を参議院選挙の争点に押し上げた。緊急事態を支えるのは老朽化した火力発電所。電力需給が一段と逼迫する冬に向けて綱渡りの状態が続く中、経済界や有権者からは安定した電力を求める声が高まり、原発再稼働の議論への追い風となっている。
政府は東京電力管内で「大規模停電の一歩手前」(萩生田光一経産相)に陥った今年3月の教訓を踏まえ、電力需要が急速に伸びる梅雨明け後に向けて準備をしてきた。老朽化で停止した火力発電所の運転再開や関西電力美浜原発3号機の運転再開時期の前倒しなどで、7―8月には十分な電力が供給される予定だった。しかし、ふたを開けてみれば6月下旬から東電管内の予備率が3%を切る危険水準が続いた。政府は新設した「電力需給逼迫注意報」を26日から30日まで出し続け、他エリアから電力融通を受けるほか、家庭や企業に節電を呼び掛けた。
誤算だったのは、関東が6月中に梅雨明けしてしまったこと。「十分な供給力がそろう前に需要が増加した」と、資源エネルギー庁の関係者は言う。
2011年の東日本大震災以降、6月の最大電力需要は4727万キロワット。これに対して今年の6月30日は5487万キロワットと、7―8月の盛夏の需要に匹敵する高水準まで需要が膨らんだ。複数の発電所は梅雨明け後に向けて補修・点検中で、まだ稼働していなかった。
折しもタイミングは参議院選が公示されてから数日後。7月10日の投開票に向けて電力・エネルギー問題が選挙の争点に加わり、自民党が公約に掲げてきた「安全が確認された原子力の最大限の活用」の議論を後押ししている。ロシアが極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」で新たな方針を決めるなど、日本が権益を失う可能性が出てきたことも追い打ちをかけている。
読売新聞が6月27日から7月1日までツイッターで話題になった参院選の争点を分析したところ、「エネルギー」という単語の投稿数が約2万8000件と急増し、「新型コロナウイルス」に続いて2位となった。7つのキーワードを設定して分析したもので、3位は「景気・雇用」、4位は「外交や安全保障」だった。
経済同友会の桜田謙悟代表幹事は6月29日の会見で「なぜもっと早くアクションを取らなかったのか、十分に反省する必要がある」とした上で、「このような事態になった以上、明らかなことであるが、安全性が確認できた原子力発電所は再稼働させることを今以上に進めていかなければならない」と語った。都内で自民党候補者の街頭演説を聞いていた会社役員の男性(70)は、「日本のエネルギーどうするのかを考えたら、原発は色々問題はあるけれどもやっぱり必要ではないかと思う」と述べた。
<原発の早期再稼働は非現実的>
準備をしていた火力発電所が6月末から順次立ち上がり始めたため、需給は今後しばらく改善が見込まれる。今年の冬の需給は夏より厳しい見通しだったが、3月の福島沖地震で被災した新地火力も年内に復旧する見通しが立ち、電力の余力を示す予備率は5月時点のマイナス予想がプラス1.5─1.6に転じた。それでも、北海道と沖縄を除く全国8エリアで、依然として安定供給に必要な3%を確保できていない。
需給が綱渡り状態の中で発電所にトラブルが起きれば停電が発生するリスクは否定できない。3月の福島沖地震で大規模停電の寸前まで行ったのは、複数の火力発電所が被害を受けたためだ。「老朽化した火力をたくさん使っているため、いつ事故が起こるか分からない」と、政府関係者は懸念を示す。
岸田文雄首相は3日、各党党首が参加したNHKの討論番組で「点検の終わった火力・水力発電所をどんどん動かしていくことで対応する」と語り「最大限、原子力を活用する方針はこれからも大事にしていきたい」とも述べた。
電力業界に詳しいある大手銀行幹部は「カーボンニュートラル実現、安定・安価な電力、原発拒否という3つはトリレンマ」と指摘する。国際的に脱炭素の方向性は変わらず、安定・安価な電力がなければ産業の空洞化が進むとし「原発にある程度頼らないとだめだという選択を国民に仰ぐプロセスが必要」と話す。
しかし、足元で期待を寄せる声が出ている原発も早期の再稼働は見込めない。岸田首相は安全を確認できた原発から動かすため、審査の効率化を図る方針を示しているが、冬までに新たに再稼働を決定するのは現実的ではない。立憲民主党の泉健太代表も「原発は電力が足りなくなったからと言ってすぐに動かせるものではない。そんなことは政府も分かっている」と突き放す。
参議院選挙後に原発再稼働の議論は進むのかーー。大和証券シニアエコノミストの末廣徹氏は「今年の冬には間に合わないはずで、『再稼働と言っていたのに冬間に合わなかったじゃないか』という批判が出る可能性もあり、それも勘案した上でどういうトーンの変化になるかはまだ読めない」と語る。
企業の多くは政府の呼び掛けに応じ、トイレの温水洗浄便座の温度を下げたり、離席する際はパソコンを閉じるなど節電を続けている。電力需給逼迫注意報が出た間、自動車や半導体メーカーは自家発電を使って工場を動かした。経団連の関係者は「需給逼迫が長期化すれば節電の長期実施で企業活動の制約につながり収益への悪影響が懸念される。電力の安定供給に政策を総動員してほしい」と話している。
(清水律子 取材協力:小宮貫太郎、Sam Nussey、杉山聡、山崎牧子 編集:久保信博)
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