Wednesday, July 13, 2022

論説 米社会の分断 威信損なう過剰な対立 - 山陰中央新報社

 米国で社会の分断が際立ってきた。

 長く良識の府とされてきた連邦最高裁が妊娠中絶の権利を確立した判決を覆すなど、保守派の意向に沿った踏み込んだ判断を連続して出し、リベラル派の反発が強まっているためだ。

 議会選や知事選が行われる11月の中間選挙を控えて米国は政治の季節に突入している。民主主義社会であるから見解の違いをぶつけ合うのは当然だろうが、対外的な指導力を損なわないような現実的な議論を望む。

 ウクライナでの戦争や世界を覆うインフレ、食料危機など混乱を鎮めるには米国の指導力が欠かせない。自由民主主義陣営のとりでである米国が混乱しては、強権的なロシアや中国への批判に説得力を欠く。過剰な対立は米国の威信を損なうことを理解すべきだ。

 一連の最高裁判断で最もインパクトが大きいのは6月24日に出した妊娠中絶の憲法上の権利を否定したものだ。1973年の最高裁判決以来約半世紀にわたって全米で確立されてきた妊娠中絶の権利が否定され、今後は州法により容認と禁止が決まることになった。

 全米50州のうち、宗教的に保守的な約半数の州では中絶が厳しく制限される見通しで、違反者には罰則が科される可能性がある。こうした州の住民が中絶を望む場合は他州や外国への移動を強いられ、健康面や費用などで多大なコストとなる。

 今年3月の米世論調査では中絶を合法とすべきだとの回答は61%で、女性は63%に上る。このため今回の最高裁判断は世論と乖離(かいり)していると批判されている。

 中絶の権利を擁護するバイデン米大統領は「女性の体と命が危険にさらされる」として反発し、全米で中絶の権利を認める法を議会に可決するよう促しているが、中絶に否定的な共和党の反対で困難視されている。

 バイデン政権やリベラル派は人工的に妊娠中絶を起こす飲み薬の全米への普及を唱えているが、これに対しても禁止派は阻止を図っている。

 米国を分断するもう一つの争点である銃規制でも、最高裁は拳銃の携行を厳しく制限するニューヨーク州の州法を違憲として葬る判断を6月23日に下した。銃保有を認める憲法修正2条に反するとの理由だが、反発した同州議会は多くの公共の場での所持を禁止する州法を成立させた。こうした中、4日には中西部で独立記念日を祝うパレードの最中に銃が乱射され6人が死亡、少なくとも30人が負傷した。

 また最高裁は6月30日には地球温暖化対策で二酸化炭素排出量を規制する連邦政府の権限を制限する判断を示した。バイデン政権の脱炭素政策に大きな打撃となる。

 最高裁は9人の判事で構成され多数決で判断が決まる。トランプ前大統領の指名を受けて保守派の判事3人が連続して就任し、保守派6人対リベラル派3人となり、均衡が崩れた形だ。

 一連の判断はいずれも米国の分断を象徴する根深い問題だが、圧倒的に有利な状況を受けて保守派判事らは一気に意向を通した。だが世論調査では最高裁を信頼するとの回答率は25%で昨年から11ポイントも下落、過去のような高い支持率は望めない。ホワイトハウス、議会に続いて最高裁もが政治対立の当事者となり、国民の多くから背を向けられる事態は嘆かわしい。

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