Friday, July 23, 2021

首相は「言葉磨き」で的確な説明を…高村正彦・元自民党副総裁[政治の現場]決戦の足音<8> - 読売新聞

 菅首相の特性は、国民のために働く、必要なことは断固やるという思いが強いことだ。

 新型コロナウイルスのワクチン接種目標で「1日100万回」を掲げた際、世間は冷笑したが、現実はそれ以上となった。首相が思い描く通り、希望者全員が10月、11月の早い時期までに2回接種できれば、ワクチンはゲームチェンジャー(流れを変える存在)になり得る。ただ、急がせたあまり、供給が追いつかないという副作用も出ており、十分な手当てと説明が必要だ。

 政治はメッセージか結果かと言えば、結果だ。良い結果を出すために的確なメッセージと説明が必要なことも事実だ。首相も心がけてはいるが、さらに言葉を磨いてほしい。

 首相は昨秋の自民党総裁選で圧倒的多数で選ばれ、1年しかたっていない。「我と思わん者は手を挙げ」とやるのが普通だが、コロナとの戦いという有事では、平時と違った対応も考えられる。具体的にどうするかは、現役の人で決めてもらいたい。

 衆院選に小選挙区制が導入されて、政権選択の側面が強くなり、候補者は党首の人気に頼るようになった。候補者自身も選挙民と信頼関係を築き、どんな状況でも自分だけは生き残るという覚悟と努力が必要だ。

 不平不満を匿名で漏らす議員もいるが、党全体の足を引っ張るだけだ。政権や党幹部の言動に疑義があれば、直言すれば良い。

 細川政権時代(1993~94年)、自民党の首相・議長経験者で構成する党最高顧問会議の面々が、料亭で懇談し、終了後に取材を受けていた。長老支配の印象を与え、悪評だった。私と谷垣禎一氏(後に自民党総裁)、町村信孝氏(後に衆院議長)らで、会議の事務局長役だった田村元・元衆院議長に進言した。田村氏は憤然としたが、結果として廃止に動いてくれた。

 私は2大政党論者であるから、政権担当可能な野党の出現を心から願っている。立憲民主党は民主党政権時代の失敗を何ら総括していない。安全保障法制を頭から否定し、「徴兵制」が導入されるかのようなパンフレット50万部を作成したこともそうだ。幹部には、立民は新しい政党で民主党とは関係ないという人さえいる。立民で失敗したら、また新たな党を作り、我々は関係ないと言うのだろうか。

 憲法学者の約7割が違憲もしくは違憲の疑いがあると言う中で、自衛隊合憲を当然のこととする立民が憲法への明記に反対というのは訳が分からない。「立憲」民主と名乗る以上、自民以上に憲法への明記を主張するべきではないか。

 自民の河本派会長だった河本敏夫氏(元通産相)は、筋金入りの平和主義者で、旧制姫路高校在学中には、軍事教練の際に反戦演説を行い、放校になった。だが、1991年の湾岸戦争後に、海部内閣がペルシャ湾への掃海艇派遣でしゅん巡した際、私の目の前で、首相と官房長官に「自衛隊を出さないと大変なことになる」と電話で進言した。野党が政権を目指すならば空想的平和主義ではなく、現実的平和主義の固まりを作らないと駄目だ。

 政治家は、国民のために働くことに喜びを感じない人がなると自身が不幸になるし、国民を幸せにはできない。振り子が右に振れようが左に振れようが、自分の頭で現実的、合理的に何が国益かを考えられる政治家が育つことを願う。

 1980年衆院選で初当選。経済企画庁長官として初入閣し、外相、法相、防衛相を歴任した。2000年に旧河本派を引き継ぎ、翌01年に高村派。12年9月から、議員引退後の18年9月まで党副総裁。現在は党憲法改正推進本部最高顧問を務める。79歳。

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