県は7日、犯罪被害者支援の趣旨を盛った条例の制定に向け、専門家の委員5人でつくる「県犯罪被害者等支援条例検討部会」の初会合を県庁で開いた。県は他都道府県条例で一般的な事項を「条例に盛り込む内容について(案)」として提示。犯罪による直接的な被害後に受ける「二次的被害」の例として「報道機関による過剰な取材」などを盛り込んだ。
県は2019年度以降に条例を制定した18都府県の規定を案とし、今後どんな内容を盛り込むかの骨格になると説明。犯罪被害者への相談窓口や保健医療・福祉サービスの提供、さらなる被害を受けることを防ぐための安全確保、居住や雇用の安定、経済的負担の軽減などを例示した。
二次被害については「直接的な被害を受けた後に、周囲の無理解や心ない言動、インターネットを通じて行われる誹謗(ひぼう)中傷、報道機関による過剰な取材等により、犯罪被害者等が受ける精神的な苦痛、身体の不調」などと定義した。
検討部会は匂坂(さきさか)千穂弁護士(県弁護士会犯罪被害者支援対策委員長)を会長に互選し、この案に沿って意見交換。市町村で条例制定が進んでいない県内では小規模自治体に対する県の支援が必要―といった意見が出た。「報道機関による過剰な取材」を二次被害に例示することの議論はなかった。
検討部会は今後2回開いて意見をまとめ、10月に県人権政策審議会へ報告する。県は内部検討を経て、県会に条例案を提出するとしている。
県によると、犯罪被害者支援に特化した条例は4月1日現在で32都道府県が制定。県内では埴科郡坂城町が昨年9月、町内での殺人事件発生を受け、遺族への見舞金を創設した「町犯罪被害者等支援条例」を県内で初めて制定した。報道への規制は盛り込んでいない。
匂坂氏以外の委員は次の通り(敬称略)。
宮坂節勇(長野犯罪被害者支援センター専務理事)尾崎万帆子(白梅学園大子ども学部講師)山本京子(長野大客員教授)川上哲義(長野犯罪被害者支援センター理事、犯罪被害者遺族)
■犯罪抑止 報道の役割考慮を
県は犯罪被害者支援条例の制定に向けた検討部会の初会合で、報道による二次被害を盛り込んだ内容案を委員に提示した。報道機関が果たす犯罪抑止の役割を考慮しない条例案は、将来に向けて犯罪被害者を減らす支援策になり得ない。報道規制に対しては取材に対し、慎重に考えるべきだとする委員も少なくない。
2019年度以降に制定した先行例では、栃木や群馬、新潟県などがインターネットによる誹謗(ひぼう)中傷などに加えて「報道機関による過剰な取材」を二次被害に例示した。三重県も規定してはいるが、憲法21条の「表現の自由」を挙げ、「報道機関が自由に適切な対応を行うべき」とする解説文を定めている。青森や千葉、石川、香川県は規定していない。
この日の検討部会では報道規制は議論されなかったが、匂坂千穂会長は取材に「被害者の考えを大事にしてほしいが、表現の自由もあり難しい問題」と説明。尾崎万帆子委員は「被害者に報道による苦痛が全くなかったとは言えない」とした上で、「行政や司法機関も二次被害を与えてきた」と指摘する。
中野市で14年5月に危険ドラッグを吸った少年の乗用車が暴走した多重事故で長男を亡くした川上哲義委員は、積極的に取材を受けて再発防止を訴えてきた経験から「柔軟に対応した方がいい」と指摘。宮坂節勇委員は「報道の自由の保障が前提だが、配慮への努力を求めることは必要ではないか」とする。
一方、専門家からは、NPO法人情報公開クリアリングハウス(東京)の三木由希子理事長が「被害者本人とすれば、二次被害はかなり幅広いものを指している」と指摘。何が過剰な取材かを示すのは難しいとし「曖昧なことを固定的な事実のように書くのは良くなく、条例に盛ること自体、本来は避けないといけない」としている。
(井口賢太)
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