格差拡大による分断、さらには地球温暖化-。深刻化する複合的な社会問題の根源に「行きすぎた資本主義がある」と3年前の自著『人新世(ひとしんせい)の「資本論」』で指摘した。「資本論」のマルクス研究に絡めた学術的な色彩もある新書としては異例のベストセラーになった。「『何かおかしい。このままでいいのか』と感じた人が読んでくれた」と東京大学大学院の斎藤幸平准教授は話す。そして本書で東京都杉並区の岸本聡子区長ら6人の共著者と民主的な対処法を示した。キーワードは公共財を意味する「コモン」。それを守るための市民参加型の自治だ。
象徴的な事例がある。神宮球場などを建て替え、商業施設が入る高層ビルを建てる東京・明治神宮外苑の再開発。イチョウ並木は市民の憩いの場、草野球を楽しめるグラウンドも広がる。それを金もうけのために解体する。際限ない成長が前提の資本主義の論理だ。しかし、元々は国有地で一定の条件下、譲渡された土地。市民が自由に利用している公共財でもある。「歴史的経緯からしても『私有地だから何をやってもいい』とはならない。市民が反対運動を起こし、音楽家の坂本龍一さんや作家の村上春樹さんも賛同した。行きすぎた資本主義への警告だ」
樹木伐採や建築工事で温室効果ガスは増える。現状でも過剰な商業施設の新設は過当競争をあおり、格差を拡大する。「コモンセンスを持つ市民の反対運動が許認可権を持つ東京都を動かせるかがカギ」という。成功例はある。杉並区では区民が政策集を作り、その実現のために岸本区長が選ばれた。「上からではなく、下から。市民参加が自治を変えた実例はバルセロナなど欧米各地にある。3・5%の市民が変われば、社会は変わる」 (鈴木伸幸)
集英社・1870円
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