[上海/北京 8日 ロイター] - 上海にある集合住宅の一室で暮らすサイモン・ユーさんは、中国政府が先週打ち出した住宅ローン金利引き下げ措置によって、毎月の返済負担が軽減される。だが同時に銀行預金の金利収入も減る見通しだ。
こうしたユーさんの状況は、何とか低調な個人消費を喚起しようとしている当局が直面する事態の難しさを浮き彫りにしている。金利引き下げは確かに家計の資金繰りを楽にしてくれるが、経済の先行きが暗く、年金や医療制度といった分野で長期的な改革が実行されていない以上、消費者は財布の紐を緩めたくてもその方策がない、と複数のアナリストは指摘する。
政府が今回の措置の狙いとして挙げた消費者の購買力押し上げについて、資産運用会社で働くユーさんは「金利引き下げは私の購買力(増大)にほとんど効果はない」と冷ややかに語った。
今回の措置で引き下げの対象とされたのは、大都市部の初回住宅購入者向け既存住宅ローン。人民銀行(中央銀行)と金融規制当局は共同声明で、消費拡大に資するとの見解を示した。
ただ預貸利ざやがさらに縮小するのを嫌った国有銀行は預金金利も同程度、つまり10─25ベーシスポイント(bp)下げてしまった。
野村のアナリストチームの試算では、住宅ローン金利引き下げで軽減される借り手の負担額は年間2000億─3000億元(270億─410億ドル)に上るものの、中国の家計部門が抱える131兆4000億元の預金も、15bpの金利引き下げで収入が年間1970億元目減りするという。
初回住宅購入者のローン金利はおよそ4%、1年物定期預金金利は1.5%前後だ。
野村のチーフ中国エコノミスト、ティン・ルー氏は「これは(単なる)収入の再配分という側面が強い」と述べ、消費へのプラスの影響は「限定的だ」と付け加えた。
中国では家計資産の7割を不動産が占めるだけに、不動産市場の安定化を試みることにメリットがないわけではない。しかし最終的に消費拡大を促す最も効果的な政策は、家計貯蓄からではなく、他の経済セクターから消費者に資源を移転させることだろう。
ANZのシニア中国ストラテジスト、ジャオペン・シン氏は「主たる制約要素は人々の所得だ」と説明するとともに、今回の措置に伴う消費者信頼感の上昇は小幅にとどまるとみている。
<預金者の切実な声>
ユーさんの見積もりでは、毎月のローン返済額は1000元少なくなるとはいえ、預金収入の低下である程度効果が薄れることになる。
将来の収入をこれ以上減らしたくないユーさんは、資金の一部を株式と債券に回すかもしれない。
もっとも雇用の先行き不透明感が高まる中で、リスク回避姿勢をより強める人々も見受けられる。
上海でデータアナリストをしているリー・ジャオさんは、金利低下に落胆しながらも銀行にお金を預ける方針は変えないと話す。「政府は消費を増やしたがっているが、結局は預金者にしわ寄せがくる。人々はお金がないから使わないのであって、預金金利引き下げがプラスに働くはずなどない」と憤まんを口にした。
広東省の国有企業で働いているという別の男性は、金利がゼロになっても預金は続けると言い切り、「経済は悪化していて、人々は先行きに十分な自信が持てない。(そこで)元本を失わないようにするだけで、既に勝ちだ」と述べた。
武漢の自動車部品会社に勤めているナンシー・ヤンさんは、雇用主が昨年末の賞与を払ってくれなかったことが消費を控えている主な理由だと明かした。
「すずめの涙ほどの金利のために貯蓄しているのではない。ただ不安定な経営状態や増えない所得、住宅ローンの返済、子育てなどで不確実性があまりに多く、現金の保持は本当に大事だ」という。
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