Sunday, October 3, 2021

サクラエビ産卵盛期の遅れ、資源を左右 春漁過剰漁獲に警鐘 東京海洋大・大森信名誉教授|あなたの静岡新聞 - @S[アットエス] by 静岡新聞

 東京海洋大名誉教授(生物海洋学)の大森信氏が研究成果「サクラエビ不漁の原因についての仮説の検証」をまとめ、日本プランクトン学会報上で来年2月に発表する。国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)などの協力を受け、春漁の過剰な漁獲が産卵盛期の遅れにつながり、卵や幼生の駿河湾外流出を招いて、不漁の一因になっていることを突き止めた。一方、大森氏は富士川が流入する主産卵場の湾奥部の環境悪化にも強い警鐘を鳴らした。

大森信氏
大森信氏
2020年6月1日に駿河湾奥の富士川河口沖の5層に投入した標識粒子の流動。赤=水深5メートル、黄=同15メートル、緑=同25メートル、青=同35メートル、黒=同45メートル。5日後(6月5日)には湾外に出始め、東向きに流れるが、1カ月後も50%以上は湾内にとどまっている。一方、湾南西部に投入した粒子は76%以上が湾外に流出した。年月日の後の2ケタの数字は時間(24時間制)を示す
2020年6月1日に駿河湾奥の富士川河口沖の5層に投入した標識粒子の流動。赤=水深5メートル、黄=同15メートル、緑=同25メートル、青=同35メートル、黒=同45メートル。5日後(6月5日)には湾外に出始め、東向きに流れるが、1カ月後も50%以上は湾内にとどまっている。一方、湾南西部に投入した粒子は76%以上が湾外に流出した。年月日の後の2ケタの数字は時間(24時間制)を示す
大森信氏
2020年6月1日に駿河湾奥の富士川河口沖の5層に投入した標識粒子の流動。赤=水深5メートル、黄=同15メートル、緑=同25メートル、青=同35メートル、黒=同45メートル。5日後(6月5日)には湾外に出始め、東向きに流れるが、1カ月後も50%以上は湾内にとどまっている。一方、湾南西部に投入した粒子は76%以上が湾外に流出した。年月日の後の2ケタの数字は時間(24時間制)を示す


 大森氏は、不漁の原因として①春漁の過剰な漁獲が産卵エビを減少させ、通常7~8月の産卵盛期を遅らせた結果、主産卵場が駿河湾奥部から湾南西部に移動。卵・幼生の湾外流出が増したため②沿岸開発と汚染で湾奥を中心とする産卵海域の環境悪化が進んだため-の二つの仮説を設定。「複合作用によって不漁が発生した」とした。②については「組織だった調査はほとんどなされていない」として、①に関して本紙と連携する「サクラエビ再生のための専門家による研究会」メンバーとの共同研究の結果を集中的に述べた。
 これまでも同研究会の田中潔東京大准教授(海洋物理学)の研究で、河川による浮力と海底地形や地球の自転などの影響で湾奥には卵や幼生が滞留しやすい渦流が形成される可能性が指摘されていた。

 ■卵や幼生 湾外へ
 今回の論文をまとめるに当たり、大森氏をサポートする形で、同じく研究会のメンバーである美山透JAMSTECアプリケーションラボ主任研究員(海洋物理学)と田中准教授の2人がコンピューター上でシミュレーションを実施。同ラボと宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同開発した最新の海洋予測モデル上で、卵や幼生に見立てた標識粒子を産卵場になる富士川河口沖、安倍川河口沖、大井川河口沖の3地点の5層からそれぞれ400粒ずつ流すさらに詳細な実験を試みた。その結果、湾内に黒潮系水の流入を強める黒潮大蛇行が続いていた2020年6~9月でも湾奥で生まれた卵や幼生は湾内にとどまりやすく、湾の南西部で生まれたものは76%以上が1カ月以内に湾外に流出してしまっただろうという結果を得た。
 駿河湾内では夏以降、反時計回りの沿岸流にのって親エビが湾奥から湾南西部に移動することが知られる。サクラエビは6~11月の間に複数回産卵する。産卵盛期が8月以降になると、主産卵場は湾南西部になるとされる。大森氏は、1991~97年に県などが集めた産卵盛期とその年に生まれた0歳エビの単位漁獲量に関するデータを精査。現在のような不漁に陥る前でも産卵盛期が遅れた年ほど0歳エビの資源量は減ることを実際の漁獲データから裏付けた。

 ■湾奥の環境 重要
 さらに大森氏は「産卵盛期の後退は幼生の湾外流出増加だけではなく、幼生が十分に餌を食べる機会を減らすだろう」と指摘。富士川河口では4~5月に餌の植物プランクトン(ケイ藻類)が大発生するが、人工衛星画像の分析では分布域は短期間で変動が大きいことも判明し、「大発生と幼生の出現時期の『一致・不一致』も幼生の生残を左右するから不漁の原因につながる」と述べた。
 大森氏は「サクラエビが食べられたことを昔話にしてはいけない。駿河湾奥部の環境を半世紀以前に戻すことは不可能でも、湾奥に産卵群を十分に残し、7月ごろにそこで産卵が行われるようにすることで資源回復を図れる」とした。

 おおもり・まこと 北海道大水産学部卒。日本プランクトン学会長などを歴任した。共著書に「さくらえび漁業百年史」(静岡新聞社)、「海の生物多様性」「エビとカニの博物誌」(ともに築地書館)など。大阪府出身。83歳。

(「サクラエビ異変」取材班)

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